約 1,746,360 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9323.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第九十八話「恐れていたレッドキングの出現報告」 どくろ怪獣レッドキング 登場 ……ルイズとキュルケの喧嘩から端を発した、二人の決着の舞台となるミスコンの本番当日が 遂にやって来た。出場する選手は、他の人はルイズとキュルケの熾烈な争いに割って入るのを 躊躇ってしまったからか、この二人だけ。……イベントとして大丈夫なのか? そんな俺の懸念をよそに、ミスコンはつつがなくスタート。第一審査の学力対決――二人が一時間 延々とテスト問題を解いているという内容で、恐ろしく地味だった――はルイズに分がありそうでは あったが、第二審査の体力対決――普通の体力測定で、こっちも恐ろしく地味だった――は体格が 上のキュルケの方が勝っている感じだ。 そして多分勝負の分かれ目となる、肝心の水着審査! と自己アピール。キュルケはやはりと 言うべきか、この勝負に一番の力を入れてきていて、とんでもなく際どい水着とよく纏まった アピールを披露したのだった。これはルイズ大分不利なんじゃないか? 心配する中、壇上に立ったルイズは――先日買い物に行った際に、俺がルイズに似合うと 言ったあの水着を着ていた。 な、何だよ。結局、あれを買っていたのか。俺の意見なんかどうだっていいみたいな顔を しておきながら……そういうの、かわいいじゃんかよ。 そしてルイズは、何故このミスコンに出場したのかという質問に対して、こう答えた。 「そ、それは……。一番の動機は、クラスメイトから勝負を挑まれたからです。わ、わたしは、 挑まれた勝負から逃げることはしません。そして、その決断をする勇気は……ある人がくれた ものです。だから、わたしは……こうして、この場に立っています。り、理由は、その二つです」 ……ルイズに勇気を与えた人、か。それってどんな人なんだろうな。……まさか、俺…… じゃあないよな。そこまで行ったら嬉しすぎるんだけどなぁ。 ともかく、ルイズのアピールはたどたどしいところもあったが、真摯な気持ちがありありと こもっていて、情熱の点ではキュルケにも負けないものだった。観客からの感触も悪くない。 勝負の行方はいよいよ分からなくなってきた。果たして、投票の結果は――。 「栄えあるミスに選ばれたのは……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」 結果は、僅差ながらもルイズの勝利であった! よかった……キュルケには悪いけれど、ルイズはかなり不利な勝負に向けて、あれこれと 努力を積み重ねていたからな。俺も立場上は両方の応援代表だったけれど、内心ではどこかに ルイズに勝ってほしい気持ちがあった。それが叶って、すごく嬉しい気分だ。 「優勝したルイズさんには、トロフィーとティアラが贈られます」 再び壇上に上がったルイズは、司会進行からトロフィーとティアラを授かる。トロフィーを抱え、 ティアラで着飾ったルイズの姿は……普段のつっけんどんな態度が嘘みたいに、とても輝いて見えた。 「さぁ、勝者としてのお言葉をどうぞ」 自分の勝ちなのに、どこか信じられないという風にポカンとしていたルイズだったが、 司会に求められて慌てて口を開いた。 「あの、その、ありがとうございます! う、嬉しいです……!」 「この優勝に自信はありましたか?」 「自信なんて……なかったです。だ、だから、信じられなくて。本当に、本当に、嬉しいです!! ありがとうございます!」 ルイズ、心の底から感激しているって感じだ。本当、よかったな、ルイズ……。 「おめでとう、ルイズ!」 「おめでとーう!」 「おめでとう、ルイズさん!」 クリスやギーシュ、春奈たちの学校の仲間たちもルイズに称賛の言葉を贈った。 「あれが優勝のコメント? まるで子供ね。けど、ルイズらしいわ」 「……ん」 モンモランシーは少々手厳しいコメントだったけれど、嫌味らしさは微塵もなかった。 タバサもそれにうなずく。 「まさか、ルイズに負けるなんて……」 キュルケは少なからずショックを受けていたようだったけれど、悔しさは見せずに勝者へ向けて 惜しみない拍手を送った。他のみんなも手を叩き、ルイズは万雷の拍手で勝利を祝福された。 色々大変だったけれど、ミスコンもこれで大団円ってところだ――。 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 しかしその時、体育館の外から耳をつんざく何かの雄叫びが聞こえてきた! 今のは、経験から言うと……また! 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 気がつけば、いつの間にか外の町の真ん中に大怪獣がそびえ立っていた! あいつは、図鑑を開かなくても知っている! 怪獣の中でも一、二位を争うほど有名な奴だ! その名はレッドキング! ……何だか写真で見たのとちょっと違うような感じもするけど。 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 レッドキングは雄叫びを発しながら、足を振り上げて家屋を踏み潰し始める! ――深夜のトリステイン、一地方の村にて。 『ピッギャ――ゴオオオウ!』 「うわぁぁぁぁッ!」 「み、みんな起きろー! 怪獣だー!」 寝入っていた村が、今は大パニックに覆われている。突如として大怪獣が出現し、村の破壊を 始めたからだ。村人たちはたまらず飛び起き、大慌てで避難していく。 怪獣の名はレッドキング――限りなく本物に近い、イミテーションではあるが。 レッドキングは人間など到底及ばない暴力を以て村を蹂躙するが、正義を守るチーム、 ウルティメイトフォースゼロがそれを見過ごしはしない。ほどなくして村にミラーナイトが 駆けつけたのだった。 『とぁッ!』 池の水面から飛び出したミラーナイトは、すかさずレッドキングに飛びかかっていき飛び蹴りを 仕掛ける。相手の先手を奪う、華麗ながら速い攻撃である。 だが。 スカッ。 『な、何ッ!?』 ミラーナイトの飛び蹴りは、レッドキングの身体をそのまま突き抜けてしまったのだった。 空を切って着地したミラーナイトは言葉を失う。今のはどういうことなのだろうか。 今度は手の平を広げて掴みかかるも、やはり手はレッドキングをすり抜ける。全く触れることが 出来ないのが、これで確定した。 『ピッギャ――ゴオオオウ!』 そうだというのに、レッドキングの方からは物体に干渉し、今もまた家屋を崩したのだ。 それはつまり、このレッドキングが単なる幻影の類ではないことを意味している。 『こ、これはどうなってるんだ……? こちらからは指一本触れることすら出来ないのに…… 向こうは建物を破壊しているなんて!』 怪奇現象に直面してミラーナイトは混乱して叫んでいた。 「うわあああああッ!」 「怪獣だぁーッ!」 祝賀ムードだった体育館は一転、悲鳴の合唱が発生して生徒たちが一斉に避難していく。 「ゼロ!」 『おうよ!』 そんな中、俺はこっそりと人の間から脱け出て、物陰に隠れた。もちろん、変身して レッドキングと戦うためだ! 「デュワッ!」 ウルトラゼロアイを装着し、ゼロに変身! 飛んでいったゼロは、レッドキングの前で 巨大化して着地した。 『やめな! こっからは、このウルトラマンゼロが相手になってやるぜ!』 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 構えを取って挑発するゼロに気がついたレッドキングは、持ち前の好戦さを発揮してすぐさま こっちに向かって突っ込んできた! 『ピッギャ――ゴオオオウ!』 ミラーナイトをまるで無視して村を破壊していくレッドキング。ミラーナイトは一切の手出しが 出来ずに見ているしかない悔しさを味わわされていたが、ここでレッドキングに異変が発生。 唐突に挙動を変え、何もない虚空に振り返ったかと思うと、そっちに向かって駆け出したのだ。 『な、何だ?』 呆気にとられるミラーナイト。更にレッドキングはパンチやキックを繰り出すが、そこにはやはり 何もないのだ。 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 『くッ! ぬおッ!』 レッドキングの繰り出すパンチやキックをガードするゼロだが、レッドキングはパワー型怪獣を 代表するような奴。一発一発の重量が尋常じゃなく、食らう度にゼロはふらつく。 『何の! やられたままじゃいられねぇぜ!』 しかしゼロは気を取り直すことで態勢を立て直し、レッドキングに肉薄。そして素早く 相手のつま先を踏みつけた! 「ピッギャ――ゴオオオウ!?」 これは痛い! どんな生物もつま先までは頑丈ではない。レッドキングも同じなようで、 悶絶して動きが止まる。 ゼロはその隙を突いて相手の首を脇に抱え込み、そのままひねり投げた! 『でぇぇぇりゃあッ!』 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 レッドキングの巨体が地面に激しく打ち据えられる! 『ピッギャ――ゴオオオウ!』 ミラーナイトの見ている前で、レッドキングがいきなり前転して大地に仰向けに倒れ込んだ。 当然、ミラーナイトは何もしていない。 『さ、さっきから何が起こってるんだ……?』 さっぱり理解が出来ないミラーナイト。彼の視点からだと、一人相撲をしていたレッドキングが 自分から地面に投げ出されたようにしか見えないのだ。 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 起き上がったレッドキングは尻尾を横に振り回して攻撃してきた。その一撃はまるでハンマーの殴打。 ゼロも受け止め切れずに殴り飛ばされた! 『うぐあッ!』 負けるな、ゼロ! レッドキングを倒せるのはお前だけなんだ! 『言われるまでもねぇさ! せぇぇいッ!』 立ち上がったゼロは再度飛んでくる尻尾を見事キャッチ。相手の勢いを逆に利用して、 ジャイアントスウィングを掛ける! 『おおおおおおおッ!』 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 レッドキングの足が地面から離れ、宙に浮いて猛スピードで回転する! とうとうレッドキングは宙に浮き上がって高速回転を始めた。しかも回転軸はレッドキング 自身にはなく、虚空の一点を中心に大きく回っている。 これにミラーナイトは、レッドキングは自分の力で回転しているのではなく――そもそも レッドキングに浮遊能力はない――何かに振り回されているようだ、と感じた。 『こいつ……さっきから、見えない何かと戦っている、というのか……?』 つぶやくミラーナイト。普通ならちょっと考えにくいことであるが、先ほどからのレッドキングの 奇行はそうでもないと説明がつかないものであった。 レッドキングを地面に叩きつけたゼロは、いよいよとどめの必殺光線を発射する! 『これでフィニッシュだぁぁッ!』 腕をL字に組んで、ワイドゼロショット! 光線は綺麗にレッドキングに命中した。 「ピッギャ――ゴオオオウ!!」 この攻撃にレッドキングも耐えられず、一瞬にして大爆発を引き起こした。 『ピッギャ――ゴオオオウ!!』 最終的に、レッドキングはいきなり爆発を起こして消滅した。事態を一切呑み込めていない ミラーナイトは、レッドキングの再出現を警戒してしばらく周囲の様子を伺っていたが、それ以上 何事も起きる気配がないので、構えを解いた。 『……結局、何だったのだろうか……』 ミラーナイトはそんなひと言を漏らしていた。突然現れたレッドキングに対して何も出来ないかと 思いきや、レッドキングは奇行の果てに爆散した。この訳の分からない事態に、混乱するのも当然というもの。 ミラーナイトは思わず、今回の戦いとも呼べない戦いで感じたことをそのまま口にした。 『まるで、夢でも見ていたかのようだ……』 レッドキングを倒し、学校からの帰り道。俺はルイズと一緒に歩いていた。 「ルイズ、改めて優勝おめでとう。ホントにお前、よく頑張ったよ」 「あ、ありがとう……」 あの後ドタバタしたので直接言えていなかった称賛の言葉を伝えると、ルイズは控えめに お礼を言ってから、 「あ、あの、サイト? その、優勝のこと、だけど……」 「ん? どうした?」 「……わたしがキュルケに勝てたのは、サイト、あなたが色々手伝ってくれたからよ。あなたの アドバイスがなかったら、きっと無理だった……。だから、その……ほんとに感謝してるわ……。 ありがとうね……」 二度目のお礼。な、何かルイズ、急にしおらしくなることが最近多いよな……。そういう かわいいところを見せられると、ルイズのことを意識してしまって何だか気恥ずかしくなる……。 「あ、あの、ルイズ?」 「何よッ!」 「あ、ごめん。やっぱ、何でもない」 何か言おうかと思ったが、今回も変にルイズを意識して、結局言うことが思いつかなかった。 「じ、じゃあ、わたしの話を聞きなさい」 「何だ?」 ルイズの話? ミスコンが終わって、まだ何かあるのだろうか。 「わ、わたし、ミスコンのために水着、買ったわよね」 「あ、ああ。そうだよな」 「そ、それだけに着て終わりってもったいないでしょ? そう思うでしょ?」 「確かに。かわいい水着だったし、一度着たきりじゃもったいないよな」 そうだな、今年の夏は過ぎたけれど、また次の機会にでも泳ぎに行く時とかに着るのも いいだろうな。と思っていると……ルイズは言った。 「だ、だから……ここ、こ、今度、海に……つ、連れていきなさいよ!」 「海に?」 え? お、俺が、ルイズを……? 「そうよ! で、でで、でも、言ったでしょ!? これは水着がもったいないからって! だ、だから仕方なく、あんたと行ってあげるんだからッ!」 そ、そういうことか。でも……女の子から泳ぎに誘われるなんて、すごくドキドキするな……。 夏休みには、シエスタたちと遊びに行ったはずだが……。 「お、俺は別にいいけど。……じゃあ、いつ行こうか」 「そ、それはあんたが決めることでしょ!? ちゃんと計画立てて、それにせっかくだから、 た、楽しませてよね!」 「分かったよ。がんばってみます」 ルイズと泳ぎに行くプランか……。俺に上手に立案できるかな? 更にルイズは要求する。 「……じゃあ、とりあえず。この場は、わたしを家までエスコートしてちょうだい」 「はいはい。んじゃ、行きますか」 ぶっきらぼうに呼びかけたら、ルイズは怒鳴り声を出した。 「『行きますか』じゃないわ! エスコートなんだから、もっと優雅に!」 「優雅って……。お前、いつもそればっかだな」 やっぱり、育ちがいいとそういうの気にかかるもんなんだろうか。まるで貴族みたいだよな。 ……いや、ルイズが「優雅」って言うの、これが初めてだったじゃないか? 何だかよく 言われているような気がしたけど……。 「サイト?」 「あ、ああ、何でも。んで、優雅な誘い方って?」 「『レディ、こちらです。お手をどうぞ』。これくらい考えつかないの?」 おいおい、無茶言うなよ。俺は日本の一般庶民だぞ。ってルイズ相手に言っても、しょうがないか。 「はいはい。ではレディ、こちらです。お手をどうぞ」 「……ありがとう、ジェントルマン」 俺が差し出した手をルイズが取り、俺たちは再び歩き出す。いい歳して手をつないで歩くのは 恥ずかしかったが……ルイズが横にいると、何故だか周りの目はそれほど気にならなかった。 ……つい最近、似たようなことがあったような気がしたのも、その理由かもしれない。 家に帰ると、リシュが俺を出迎えてくれた。 「ただいま、リシュ」 「お帰り、お兄ちゃん! 今日がお兄ちゃんの学園のミスコンだったんだよね。楽しかった?」 と尋ねてくるリシュに、俺はぐっと親指を立てた。 「ああ、バッチシな! 当初の目的だった、ルイズとキュルケの仲も多少なりは改善できたみたいだし」 その本来の目的が達成できただけでも、苦労した甲斐があったというものだ。 「これからは、平穏な日常が送れるだろうな。久々に明日が来るのが楽しみな気分だぜ!」 ルイズといつか、泳ぎに行く約束もしたしな! またルイズやみんなと楽しい時間を過ごすんだ。 そう、明日から……! ……そう思っていたら、クス、といった音がした。 「そうだね……平穏な明日が来るよ……。これからは、もう何にも苛まれない……」 「……? リシュ、今何か言ったか?」 「ううん! 何も言ってないよー!」 ニコッと笑いかけたリシュは、クルリと背を向けてそのままパタパタと家の奥へ走っていった。 ……その姿はいつものようにあどけない、無邪気なもの、のはずなのだが……俺は何故か…… 妙に不安なものを感じた。どうしてなんだろうか……。 平穏な明日……明日は、来るよな。当たり前のことなんだが……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9301.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第八十九話「地下に眠る少女」 地底怪獣モゲドン 登場 ……クリス発案の、平民のための舞踏会に関して、才人たちは翌日には開催許可をオスマンに求めた。 オスマンはこの企画に理解を示してくれて、授業の阻害にならない程度ならば場所と資材を自由に使って よいという許可をくれた。ただし、学院の外聞というものがあるので、舞踏会はあくまでルイズら生徒の 完全自主で執り行い、責任は全てルイズたちで持つこと、何か問題が発生した場合は強制的に中止させる 可能性もあるという条件の上であった。 何はともあれ、当面の問題はクリア。後は授業の合間に舞踏会の準備を進めていくのみ。 そして今の才人はもう一つの問題に取りかかっていた。それは昨日決めた、連続する挙動の 怪しい怪獣の連続出現の原因を究明することだ。そのために朝早くから学院の様々な場所を 調べたのだが、今のところは特に怪しいものは発見できていなかった。 放課後まで時間をかけて、地上の大体のところは調べ終わった。後に残っている場所は…… 学院の地下室である。 「へ~、ここが学院の地下室か。さすがに、前に潜った公文書館みたいな危険な感じはなさそうだな」 実際に地下室に足を踏み入れた才人が、魔法のランプの灯りに照らし出された周囲を見回して そんなことを語った。その傍らのルイズが軽く咳き込みながら眉をひそめる。 「長年掃除されてないからか、大分ほこりっぽいわね……。こんなところに長居したくないわ。 さっさと用事を済ませてしまいましょうよ」 どうしてルイズが一緒にいるかと言うと、舞踏会に使えそうな道具を見繕いに来たのだ。 ここは学院の備品の数々が仕舞われている物置の役割を果たしている。ちょうどいい機会なので、 才人の用件とともに何か使えそうな道具がないか調べることを一緒にやっておこうということに なったのだ。 「でもここ、滅茶苦茶広いし、物もたくさんあるみたいだぞ。調べるのは時間かかりそうだぜ。 ていうか、こんな広い場所を物置だけにしか使ってないなんて、もったいなくないか?」 「もったいないことはないわよ。地下室なんて、物を保管しておくくらいしか使い道ないもの」 「そんなもん? しっかし、ほんとに何があるのか把握するだけで一苦労しそうだな、これ」 地下室にはベッドやカーペットのような家具から、何に使うものか見ただけではよく分からない ものまで雑多に転がっている。恐らく、使わないものを適当に放り込んでいった結果だろう。 「そんなこと言ってたって何も始まらないわよ。ほら、とりあえずあっちの奥から始めましょう」 「へーい、分かりました」 何であろうと、まずは最初の一歩を踏み出すのが大事。そういうことなので、ルイズと才人は 地下室の端から調べ始めようとしたのだが……。 「……ん?」 その時に、地下室全体がかすかに揺れ出したのを才人が感じ取った。 「どうしたの、サイト?」 「いや、何か地震……?」 そして揺れは徐々に大きくなっていく。ここに来ると、ルイズも気がついた。 「きゃッ!? な、何なに? こんな時に地震!?」 「い、いや……これはまさか……」 才人はこれまでの怪獣退治の経験から、揺れが自然なものでないと感じた。それを裏づけるかの ように、二人の面前に何か巨大なものが床を突き破って出現した! 「フゴッ、フゴッ……プギィ――――――!」 二つのでかい目玉が目立つ……と見せかけてそれは模様で、実際の目は赤く小さい、 モグラのようなカエルのような巨大な首がルイズたちの前に現れた! 「きゃああぁぁッ!? 怪獣!」 「何ッ!? くそッ、直接学院に乗り込んできやがったのか!」 怪獣の首が地下室に出現したことに度肝を抜かれる二人。そして怪獣出現の衝撃で、辺りのものが バタバタと崩れたり倒れたりしててんやわんや。 「あわわわわ! 危ない!」 「くッ、ここで暴れさせる訳にはいかねぇ!」 才人は咄嗟の判断でウルトラゼロアイ・ガンモードを構え、怪獣の顔面にレーザーを浴びせる。 「プギィ――――――!?」 その一撃に怪獣は驚いたようで、首を引っ込めて土の中に消える。だが次は地上に出て 学院を危機に晒すかもしれない。放ってはおけない。 そこで才人はウルトラマンゼロへの変身を決意する! 「ルイズ、なるべく安全なとこで待っててくれ! デュワッ!」 ゼロアイを開いて顔に装着、光となって怪獣が開けた穴の中へと飛び込んでいった。 学院の外側の地表に、先ほどの怪獣が穴を開けて飛び出す。 「プギィ――――――!」 地下室では分からなかったが、両手がスコップのような二等辺三角形の形状に発達している。 土を掘り返しやすい、地中の環境に特化した進化を遂げた地底怪獣だ。 名前を、モゲドンという。 「ジュワッ!」 モゲドンが地上に出てくると、穴から続くようにゼロも飛び出してモゲドンの眼前に着地した。 『暴れるな! 大人しく元いた場所に帰りな!』 「プギィ――――――!」 手の平を向けてモゲドンを制しようとするゼロだが、興奮し切っているモゲドンは聞き入れず、 猛然とゼロへ突進してきた! 『ちッ!』 それを瞬時にいなすゼロ。突進を受け流されたモゲドンだが、すると地面に向けて飛び込み、 スコップ状の手を使い超高速で穴を掘る。モゲドンの姿はたちまちの内に地面の下に消えていった。 『!』 間髪入れずにモゲドンはゼロの足元から首を出し、彼の足元をすくい上げる。 「プギィ――――――!」 『うおあッ!』 ひっくり返されてこけるゼロ。したたかに打った尻をさすりながら立ち上がる。 『くっそ、やってくれるぜ……!』 「プギィ――――――!」 反撃しようとするも、モゲドンは既にいくつも作った穴から不規則に顔を出しては潜りを繰り返し、 ゼロを翻弄する。まんまモグラ叩きのモグラだ。 『味なことするぜ……だがッ!』 ゼロは意識をこらし、土中のモゲドンの気配を探る。そして、 『そこだッ!』 一つの穴から顔を出したのと同時に命中するように、ビームゼロスパイクを投げ飛ばした! 「プギィ――――――!?」 光弾を食らったモゲドンはそのショックで、思わず穴から全身を飛び出させてバタバタもがいた。 『はぁーッ!』 すかさず距離を詰めたゼロ、モゲドンの首筋をバシッと叩いた。 「プギィ――――――!」 するどい打撃を食らって大人しくなったかに見えたモゲドンだが、それは一瞬だけのことで、 お返しのようにゼロの顔面を手の平で掴み込んだ。そのまま握力をかけて締め上げる。 『うおあぁぁッ!? いてぇッ! 超いてぇッ!』 とがった手の平に顔をギリギリ握られて、ゼロは相当な痛みを食らってもがいた。モゲドンの すねを蹴ることで、握力を緩ませ脱出する。 「プギィ――――――!」 『はぁ、はぁ……結構やるもんだな。だったら、こいつはどうだぁッ!?』 持ち直したゼロが、再びモゲドンに真正面から接近していく。 『おおおおおッ!』 「プギィ――――――!」 今度は迎撃しようと待ち構えるモゲドン。ゼロが飛び込んでくるところで、腕を振るおうと構えるが、 『とぉうッ!』 パシ―――――ンッ!! と目の前で激しい音が発生し、モゲドンは急なショックで目を回した。 ゼロがものすごい勢いで手の平を叩き合ったのだ。 今のはねこだまし……ウルトラねこだましといったところだ! 『よっし、今だ!』 モゲドンが目を回している隙に、ゼロはその身体にがっぷりと組みついて、高々と持ち上げる。 「ジュワッ!」 そしてそのまま空高く飛び上がり、モゲドンをどこか別の場所へと運んでいったのであった。 モゲドンを地底に帰してから、ゼロから変身を解いた才人は学院の地下室まで戻ってきた。 「あっちゃー……やっぱぐちゃぐちゃになっちゃってるな」 地下室の様子を一望した才人は大きく顔をしかめた。モゲドン出現の震動により、地下室の物は 軒並み倒れてしっちゃかめっちゃかになってしまっていた。才人の隣まで寄ってきたルイズもため息を吐く。 「こんなことになっちゃ、余計に調べるのに苦労しちゃうわね。……というか、これ誰が 片づけるのかしら?」 「この場に居合わせた、俺たちだったりして」 「えぇ? 嫌よそんなの! 日が暮れちゃうわ!」 ルイズが嫌がっていると、不意に近くからガタン! と何かが落ちる物音がした。 「うわッ!」 「きゃあ!? ななな、何?」 才人の上げた声に驚くルイズ。 「あ、ああ。ほら、あそこのでかい箱の蓋が開いて床に落ちたんだよ」 才人の視線の先には、長方形の箱が横たわっている。言う通り、蓋が床に落下していた。 「さっきの震動で、バランス崩して落ちたんだろうな。しっかし、何の箱だろ? まるで棺桶 みたいだけど、中身は何だろうな」 「ややや、やめてよ、棺桶なんて! ぶ、不気味じゃない!」 才人のひと言に怯えるルイズ。そういう怪談めいたものは苦手なようだ。 しかし才人はお構いなしに箱に近づいて、中を覗き見た。 「さーて、何だろな~。……あ?」 「ど、どうしたの?」 すると才人は硬直する。その反応が気にかかったルイズも箱の中を覗くと……。 「えッ、ひ、人がいるわ……」 箱の中に寝そべって目を閉ざしている、青髪の裸の少女の姿を目にすることとなった。 「どへええ!? ほ、ほんとに棺桶だったのかよ!」 これにはさすがの才人も度肝を抜かれた。 「も、もしかして俺たち、殺人事件を目撃しちゃったのか!?」 「い、いや、何、何なのこれ! ササ、サイト! もう一回蓋をしちゃいなさい!」 「蓋したって意味ないだろ!? 見つけちゃったもんはしょうがないんだし!」 「みみみ、見なかったことにすればいいでしょ!? こんなの!」 想定以上の事態に直面し、パニックに陥る二人。それをゼロが制する。 『落ち着け、お前ら! この子……息をしてるぞ』 「えッ……?」 「……ふぁ」 ゼロの言葉を肯定するかのように、横になっている少女の口から吐息が漏れた。 「し、しゃべった……?」 「ほ、ほんとに生きてるの……?」 「んにゃ……?」 次いで、少女はぱっちりと目を開く。そのままぼーっとしている少女に、才人は戸惑いながらも 呼びかけた。 「あ、あの、おはよう」 「……」 「サイト、話して大丈夫なの?」 「言葉が通じるか分かんないけど、他にどんな手段があるんだよ」 「そうだけど……」 とりあえず、才人は少女に自己紹介をする。 「え、えっと、騒がしくしてごめん。俺は平賀才人。こっちはルイズっていうんだ」 「……」 「ルイズは見ての通り、ここの生徒。で、俺はその使い魔」 「……」 「き、君は誰? どうしてこんな地下室で寝てたんだ?」 何を話しても、少女からの反応はなく、ただ才人の顔をじっと見つめ返すのみ。いよいよ 言葉が通じないのか、と才人は思ったが、その時、 「……サイト」 「へ?」 「サイトッ!!」 「おわッ!?」 少女は才人の名前を繰り返すと、いきなり起き上がって彼に抱きついてきた! もちろん全裸で。 「わわわわわ~!?」 「ち、ちょっと!? 何するのよいきなり!」 仰天するルイズだが、少女はルイズが目に入っていないかのようにひたすら才人に頬ずりする。 「サイト、サイトサイトー!」 「た、確かに俺才人ですが! あなたは誰ですか!?」 「サ、サイトッ! 早く離れなさい!」 「逆! 逆だッ! 俺が抱きつかれてんだって!」 「こここ、この犬! こんな小さな女の子まで……女なら何でもいいのか、犬ッ!」 「人の話聞けー!」 混乱して逆上するルイズを、才人は必死になってなだめるのであった。 その夜、ルイズと才人は地下室で発見した少女をほったらかしにする訳にもいかず、とりあえず 寮塔の部屋へと連れていった。裸のままでは色々とまずいので、ルイズの私服を着させる。 「サイトさん、終わりましたよ」 「サンキュー、シエスタ」 畳の上で謎の少女に服を着させたシエスタが呼びかけると、それまで背を向けていた才人が振り返った。 「きゃはッ! サイト!」 「わッ!」 途端に、少女は才人に飛びついて腕に抱きついた。それでルイズは急激に不機嫌になる。 「な、な、何なのかしらねぇ。人の使い魔に気安く触って……ッ!」 「お、怒るなってルイズ。この子、見た目からして多分タバサよりも年下だろ? そんな年頃の 子にムキになるなよ、大人げない」 「とか言いながら、サイトさんも満更ではないのでは?」 「シエスタまでそんな冷めた目ぇして~!」 二人から責められているようで、すっかりたじたじの才人であった。 「ムキになんかなってないわッ! なるもんですか! た、ただ! 名乗りもしないでいるなんて 失礼じゃない! だからよ!」 「そういや名前聞いてなかったな。君、名前何ていうの? 言えるかな?」 才人が尋ねかけると、少女は元気溌剌に答えた。 「リシュ!」 「リシュ? それが名前?」 「うん。リシュ!」 リシュという少女の名前について、ルイズとシエスタが話す。 「聞いたことがないわね。少なくとも、この学院の生徒にも教師にもそういう名前の人はいないわ」 「ここで働いてる平民の誰にも、そんな名前の人はいないはずです。そもそも、いくら何でも この子は学院にいるには小さすぎますよ」 一方のリシュは、才人に尋ね返す。 「サイト?」 「ん? 何だ、リシュ?」 「似合う?」 「服か? うん、似合うぞ。サイズもぴったりだし、よかったな」 「うん♪」 「ぴぴぴ、ぴったりでよかったわねぇ。どど、どうしてぴったりなのかしらねぇ」 いらいらするルイズのひと言で、シエスタがふっと冷笑した。 「シエスタ! 何か言いたいことでもあるのかしら!?」 「いえ、何でもありませんわ、ミス・ヴァリエール」 険悪になる二人をよそに、リシュはまた才人に尋ねる。 「リシュ、かわいい?」 「おう、かわいいかわいい。すっごくかわいい」 「えへへ~」 そのまま子供をあやすように才人が誉めると、リシュははにかんだ。 「でッ、デレデレして……」 それでルイズとシエスタはやきもちを焼く。 「お兄ちゃん、誉めてくれてありがとッ!」 「お、お兄ちゃん!?」 「うん、サイトお兄ちゃん! リシュより大きいから!」 満面の笑みのリシュの台詞に、才人は心の内の変なところをかき乱されて興奮した。 「お、俺は理解した! このトリステインに足りないもの! それはッ! 妹キャラだったんだーッ!!」 「わけわかんないこと言ってるんじゃなーいッ!」 「ぐべッ!」 叫んだら、ルイズから強烈な蹴りをもらってしまった。 「あがががが……。ルイズ……蹴る時はひと言予告しようぜ……。心の準備が出来るから……」 「うるさいッ! 犬にかける言葉はないわッ!」 「お兄ちゃん、大丈夫?」 蹴られた才人を心配するリシュ。 「……大丈夫。慣れてるから、お兄ちゃん」 「ルイルイ、ひどいね」 「ルッ……」 今の言葉に、ルイズは一瞬顔色をおかしくした。 「ち、ちょっとリシュ? い、今のは、まさか、わたしのこと?」 「うん!」 「ここここ、公爵家の三女に向かってルイルイ!?」 「ルイズだからルイルイ!」 「な、な、なッ!」 顔を白黒させるルイズを、シエスタが半笑いを浮かべながらなだめる。 「ミス・ヴァリエール。小さい子の言うことにそんなに取り乱されるなんてはしたないですよ」 「シエスタはシーちゃん!」 「シーちゃ……!?」 だがシエスタも同じような呼び名をつけられ、白目を剥いた。 「お、落ち着けって、二人とも。お前たちは大人なんだから、おおらかな心で、な?」 「い、いい、いいわ。最初の内は許してあげる」 どうにか平常心を取り戻したルイズは、ピッとリシュに指を突きたてた。 「けど、いずれきちんとルイズって呼ぶようにしつけるからね! いいこと、リシュ!」 「はーい! 分かったよルイルイ!」 返事だけは良いリシュであった。 「んで、リシュ。どうしてあんなところにいたんだ?」 才人がそろそろ一番気にかかっていたところに触れた。 「あんなところ?」 「あなたがいたのは学院の地下室。長いこと物置としてしか使われてなかった場所で寝ているなんて、 ありえないじゃない」 とルイズが質問するも、リシュは首を傾げるばかりだった。 「リシュ、よく分かんない。箱の中でずーっと寝てたの」 「いつから寝てたんだ? 誰がリシュを箱の中に入れたんだ?」 「分かんない」 何を聞いても、リシュはその一点張りだった。ルイズはやや語気を強める。 「リシュ、嘘吐いたって駄目なんだからね? 正直に言いなさい」 しかしリシュの回答は変わらなかった。 「嘘吐いてないもん。ほんとに分かんないもん」 それでルイズは眉をひそめる。 「妙な話ね。閉じ込められていたにしては元気すぎるし、だからといって自分の意思であそこに いたとも思えないわ」 「うーん……。ここはやっぱり学院長に報告かなぁ? 地下室なんて、先生たちくらいしか 行かないだろ?」 「!!」 才人がそう言った途端、リシュは顔を強張らせた。 「そうね、それがいいでしょ。学院の地下にいたんだから、オールド・オスマンなら何かご存じでしょうし」 「それではわたしが学院長室まで行ってきます」 シエスタが立ち上がろうとしたが、その袖をリシュが掴んで引き止めた。 「リシュ? どうした?」 才人が何事かと問うと、リシュは不安げな表情で聞き返す。 「お兄ちゃん。リシュをどっかに連れてくの? 怖いよ……。お兄ちゃんたちの傍がいい……」 リシュに潤んだ瞳で見つめられ、才人はうっ、と言葉を詰まらせた。 「ルイルイ、シーちゃん……。リシュ、邪魔?」 ルイズとシエスタまでも何も言い返せず、ルイズはため息を吐いた。 「……はぁ。今日はもう遅いわ。オールド・オスマンもお休みかもしれないし、明日にしましょ」 「ええ、そうですね」 「ありがとッ!」 「べ、別にお礼を言われる理由はないわ! こんな時間に訪問したら失礼って言ってるの!」 小さな女の子にまで意地っ張りのルイズに、才人とシエスタは苦笑を浮かべた。 リシュの方は安心したからか、かわいいあくびをする。 「ふ、ふぁぁぁぁ~。眠くなってきた……」 「さっきまでずーっと寝てたんじゃないの?」 「……ねむ……い……」 ルイズのツッコミに構わず、リシュはこてんと畳の上に横になった。 「あ、おいリシュ……。もう寝てるよ……」 すぅすぅと寝息を立てるリシュ。彼女が寝入ってから、才人はゼロとジャンボットに質問する。 「ゼロ、ジャンボット、お前たちもリシュのこと、何か分からないか? さすがにあんなところで ずっと寝てたなんておかしいよ」 『そうだなぁ……』 二人はリシュの肉体を超感覚で軽く調べる。 『普通の人間じゃあないみたいだが、ハルケギニアのどの種族にも当てはまらないみたいだな。 宇宙人って訳でもなさそうだが』 『うむ。少なくとも、現在ハルケギニアに生きるあらゆる種族の特徴には適合しない。もしや、 新種の人類なのではないだろうか』 「新種の人類って……そんな大発見が、学院の地下であるものなのかしら」 「デルフも知らないよな、リシュのこと」 デルフリンガーにも尋ねる才人。 「こんなちっこいの知らねーなぁ。地下室で寝てたってからにゃ、訳ありなんだとは思うが」 『だろうな……。おまけに怪獣の連続出現の最中での発見だ。それと何か関係があるのかもしれねぇ』 デルフリンガーの言に同意するゼロ。 『けど、こんな小さい子に怪獣を意のままに操るだけの力があるとは思えないが……。それらしい 力の波長も感じられないしな』 『邪気もない。ひとまず、直接的な危険はないだろう』 「そうか……」 ゼロたちの判断に、才人ら三人は余計困惑するばかり。リシュについて、調べるほどに謎が深まる。 『とりあえずは様子を見ようぜ。一緒にいる内に、何か分かることが出てくるかもしれないからな』 「そうするか……。じゃあ今日はこれでおしまいにして、続きはまた明日からだな。おやすみ、 ルイズ、シエスタ」 「おやすいなさい、サイト」 「おやすみなさいませ、サイトさん」 眠るリシュをベッドの端に運んであげて、三人もまた就寝していったのだった……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9106.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第三十三話「マグマ星人の復讐」 サーベル暴君マグマ星人 銀河星人ミステラー星人(悪) 緑色宇宙人テロリスト星人 登場 『現れやがったなぁ、ウルトラマンゼロぉッ!』 才人から変身したゼロに、巨大化したマグマ星人は大きく歯ぎしりをして、憎々しげな 視線を浴びせた。 『何度も何度も俺様たちの侵略を邪魔しやがって! 今日という今日は勘弁ならんッ! バラバラに切り裂いて地獄に送ってやるッ!』 マグマ星人の恫喝に、ゼロは下唇をぬぐいながら返した。 『勘弁ならねぇってのは、こっちの台詞だぜ! テメェら全員、ハルケギニアから叩き出してやる!』 『抜かせッ! この間の復讐だ! 今からぶっ殺してやらぁッ!』 マグマ星人がサーベルを振り上げたのを合図とするかのように、侵略者三人が一斉にゼロへ 飛び掛かっていく。 「ギョロロロロロ! ガアオオオオオオ!」 『ふんッ!』 ミステラー星人が腕を広げて飛び掛かってくるのを、ゼロが横拳を入れて押し返した。 それから素早くゼロスラッガーを両手に取り、マグマ星人のサーベルとテロリスト星人の 剣を受け止める。 「シャッ!」 『ぬおッ!?』 右手でサーベルを弾き、のけ反らせたマグマ星人に一発キックを入れて蹴飛ばした。同様に テロリストソードも弾いたが、テロリスト星人はのけ反らず、右手のスラッガーの水平切りも 上半身を引いてかわす。 テロリスト星人が剣を引き戻して、ゼロへ斬りかかっていく。それに対してゼロもスラッガーを 振るい、相手の斬撃を弾き返した。そのままソードとスラッガーが繰り返しぶつかり合い、激しく 火花を散らす。 『ちッ……やるじゃねぇか。剣の腕だけは認めてやるぜ』 テロリスト星人は、マグマ星人と異なり、剣の腕前は一流で鍛え抜かれたゼロと張り合うほどであった。 さすがは、ガス田を守りながらであったので全力が出せない状態だったとはいえ、ウルトラマンタロウを ギリギリまで追い詰めたことのある星人だ。 『食らえぃッ!』 「ギョロロロロロ!」 しかし敵はテロリスト星人だけではないのだ。剣戟を行っていて手が離せないゼロに、 マグマ星人のサーベルビームとミステラー星人の突き出た口吻から発射されるロケット弾が 襲い掛かる。 『あッ! ぐぅッ!』 ビームとロケット弾をまともに食らい、悶絶するゼロ。しかし隙を見せようものならテロリスト星人が ここぞとばかりに剣を差し向けるので、そちらを回避ないしは防御する暇はない。ゼロは三人の宇宙人の 攻撃に晒され、早くもピンチになる。 「あぁッ! ウルトラマンゼロが危ないです!」 王宮の廊下からは、春奈とシエスタが窓からゼロの苦戦を見ていた。シエスタは一旦春奈から 離れると、メイド服の袖をまくって、ジャンボットのブレスレットを露出した。 「ジャンボットさん、ゼロを助けてあげて下さい!」 『了解した! すぐに向かう!』 シエスタの要請に、ジャンボットはすぐに応じた。 ハルケギニアの衛星軌道上に待機していたジャンバードは、直ちにトリスタニアに向けて 一直線に急降下していく。 『ジャンファイト!』 降下の途中でジャンボットに変形し、地上に迫ると、ゼロへと剣を振りかざしているテロリスト星人を 睨みつける。 『ジャンナックル!』 『!?』 テロリストソードが振り下ろされるのを制して、ロケットパンチで横から殴り飛ばした。 テロリスト星人はトリスタニアの、怪獣に破壊されてからまだ手つかずになっている無人の 区域の上に倒れ込む。 『ゼロ、あの星人は私が引き受けた! 残る二人は頼む!』 『助かるぜ、ジャンボット!』 左腕を戻したジャンボットはゼロにひと声掛けてから、すぐに起き上がったテロリスト星人へと 駆けていく。 『ジャンブレード!』 右腕からジャンブレードを出すと、テロリストソードとの切り結びを始めた。 「シェアッ!」 ジャンボットに助けられたゼロは、構えを取り直してミステラー星人とマグマ星人のタッグと 対峙した。 『ウルトラマンゼロめ、我がミステラー星の誇る兵器、MTファイヤーを受けてみろ!』 叫んだミステラー星人の口から、またロケット弾が連射された。だがゼロはふた振りの スラッガーで、相手の弾を全て切り落とした。 『やめろ! そんな腕で俺を狙っても無駄だぜ!』 ロケット弾を凌いだゼロはスラッガーを投擲する。ふた振りの宇宙ブーメランはそれぞれ マグマ星人とミステラー星人へ、宙を切って飛んでいく。 『うがぁぁッ!!』 「ガアオオオオオオ!」 一方はマグマ星人の顔面に命中して大きく吹っ飛ばし、もう一方はミステラー星人の口吻を 切り落とした。MTファイヤーの発射口を失ったミステラー星人は口のあった箇所に手を当てて狼狽する。 『ミステラー星人! もうこんな戦いはよせ! 俺は知ってるぜ。宇宙一の戦争好きと呼ばれる お前の種族にも、平和を愛する心があることをな!』 ゼロはウルトラ兄弟の四男、ウルトラマンジャックから、地球にひっそりと暮らすミステラー星人の 亡命者の話を聞いたことがあった。その個体は、かつてミステラー星で最も射撃の腕が立つ戦闘部隊の エースであったが、30年以上も続くアテリア星との戦争に心身ともに疲れ果て、地球に亡命した。そして 地球と地球人を愛し、争いを捨てて平和に生きることを選んだのだ。 『お前も、不毛な戦いはやめて、平和に生きる道を選んだらどうだ!』 とゼロは勧告したが、ミステラー星人はそれを一笑に付す。 『馬鹿なことを言うな! 俺は誇り高きミステラー星の戦士! そんな戦争に怖気づいた 腰抜けと同じ、無様な生き様など真っ平だ!』 更にはゼロに向かって言い放つ。 『俺はこの星の征服の暁には、人間どもを捕獲し、宇宙戦士としてミステラー星に送るのだ! そして、泥沼の消耗戦に入ったアテリア星との戦争の駒になってもらう!』 『何! またアテリア星との戦争を始めたのか! 分からず屋め!』 説得に応じないミステラー星人に、ゼロが拳法の構えを取り直す。 『そんなことは許さねぇ! テメェらの自分勝手な野望は、全部打ち砕いてやるぜ!』 一見すると、まだ余力を残すゼロに対して、一番の武器を失ったミステラー星人が圧倒的不利に 見えるが、ミステラー星人は隠し玉を残していた。 『果たして出来るかな!? ウルトラマンゼロ、見ろ! 宇宙戦士の、攻撃を!』 ミステラー星人が空の彼方を見上げて叫ぶと、王宮の方角から、竜騎士の一団が戦場へと飛んでくる。 トリステインの魔法衛士隊だ。 だが、竜騎士たちは見るからに様子がおかしかった。騎士も飛竜も身体に霜が降りていて、 青い顔をしている。そしてゼロに纏わりつくと、彼に魔法で攻撃し始めた! 『うおッ!? こいつは……!』 ゼロはすぐに、魔法衛士隊の身に起こっていることを見破った。 『ミステラー星人め……既にこの人たちを捕らえて、操ってるのか!』 かつて地球に、先述の平和的なミステラー星人の他にもう一人侵入した者がいた。その者は 亡命したミステラー星人の所属していた戦闘部隊の隊長で、長期に亘る戦争で消耗し切った戦力を 補うために、地球を守っていたジャックと防衛隊MATの隊員を宇宙戦士として拉致、利用しようと 画策していた。そのミステラー星人は生物を氷漬けにして操作するという不可思議な術を使っていた。 今回も同じ手段で、騎士たちをいいように操っているのだろう。 『くッ……!』 ゼロは、正気を失ってミステラー星人の言いなりになっている竜騎士たちに手を出すことが出来ない。 魔法攻撃を前に、身を固めて防ぐことしか出来ないでいると、そんなゼロをミステラー星人とマグマ星人が嘲る。 『フハハハハハ! 無様な姿だな、ウルトラマンゼロ! 反撃して身を守ればいいだろうに、 所詮それが、偽善者の貴様の限界なのだ!』 『ハァーッハッハァッ! こいつはいいぜ! 守るべき対象に追い詰められるなんて、皮肉なもんだなぁ!』 『ぐぅッ……!』 圧倒的優位に立ったのをいいことに、好き勝手にのたまう星人たちに歯ぎしりするゼロだが、 騎士たちが邪魔で攻撃することは出来ない。そうしている間に、カラータイマーが鳴り出す。 『フハハハハ、いっそのこと、もっと苦しむがいい! 見ろぉッ!』 ミステラー星人は、ゼロに攻撃を加えようとせず、代わりに近くの建物を踏み潰し、蹴り飛ばして 破壊し始めた。マグマ星人もサーベルを振るい、次々と切断していく。 「きゃああああああッ!」 「うわああああああああ!」 二人の破壊行為で、街からは避難する人々の悲鳴が大きくなる。 『なッ、やめろ! そいつらは関係ねぇだろうがッ!』 狼狽したゼロが叫ぶが、ミステラー星人は冷笑を浴びせた。 『無関係ではない。貴様が守ろうとする者は、全て我々の敵だ! この哀れな人間どもを 苦しめるのは、貴様自身なのだよ、ウルトラマンゼロ!』 『外道どもが……!』 卑劣な手段を平気な顔で取る星人たちに、ゼロは一層怒りを深めた。 『ふッ! はぁッ!』 『ぬぐぅ……!』 ジャンボットとテロリスト星人は、剣と剣の斬り合いを続けていたが、だんだんとテロリスト星人が 追い詰められていった。生身のテロリスト星人に対し、ジャンボットはロボットなので疲労を知らない。 それ以上に、正義に燃えるジャンボットの気迫は、所詮浅い欲で動くだけのテロリスト星人のそれを 大きく上回っているのだ。テロリスト星人はジャンボットに押され、剣の切れが鈍っていた。 『降参しろ! 侵略を諦め、大人しくこの星から退散するのなら、命までは取らない!』 優勢のジャンボットはジャンブレードの切っ先を突きつけ、降服を勧告した。それにたじろぐ テロリスト星人だが、諦めた訳ではなかった。 『ぐぬぬ……こうなれば、こうだぁッ!』 テロリスト星人は急に、テロファイヤーを横に向ける。その銃口の先にはトリスタニアの街並みと、 逃げ遅れている人たち。 『何!? まさかッ!』 一気に焦ったジャンボットはテロリスト星人の左側に回り込む。そして、テロファイヤーの 砲火から人々の盾になった。 『ぐおおおぉぉぉぉッ!』 炸裂弾の雨を浴びては、鋼鉄のボディのジャンボットとはいえただでは済まなかった。 激しくうめくと、テロリスト星人は一瞬で勢いをぶり返して更に弾丸を浴びせる。 『ふははは! 形勢逆転だぁッ! 食らえぇ!』 『ぐぅぅぅ……!』 背後に大勢の人がいるので、ジャンボットは逃げることが出来ない。苦しまぎれに、テロリスト星人を 罵倒する。 『狼藉者め……! 市民を巻き添えにしようなど、貴様には戦士の誇りがないのか……!』 その言葉を、テロリスト星人は鼻で笑った。 『誇りに何の価値があるものか! 戦いは勝った方の勝ちなんだよ! それが全てだッ!』 『下衆め……! ぐぅッ!』 弾丸を食らい続けたジャンボットは、耐え切れなくなったか片膝を突いてうなだれた。 それでテロリスト星人は勝利を確信する。 『見捨てればいいものを、馬鹿めが! とどめは、この剣で刺してやる!』 テロリストソードを振り上げ、動かなくなったジャンボットににじり寄る。間合いを十分に詰めると、 一段と剣を掲げて一気に振り下ろそうとする。 『今だッ!』 その瞬間に、ジャンボットは黄色い目を強く輝かせて、電光石火の速さで起き上がった。 そしてジャンブレードを切り上げて、テロリストソードを弾き飛ばす。 剣を失ったテロリスト星人は瞬時に狼狽した。 『な、何ぃッ!? 騙したのかッ!? 卑怯者ぉッ!』 『貴様が言うなッ!』 ジャンボットはもうテロリスト星人を許さず、ブレードを薙ぎ払って、真っ二つに切り裂いた。 『がぁッ……! こ、このテロリスト星人が、こんな奴に敗れるとはぁ……!』 『貴様は私にだけ負けたのではない。驕り高ぶった己の心にも負けたのだ』 ジャンボットのひと言を最後に、テロリスト星人は爆散した。 「ゼロ! ゼロのピンチだわ!」 地上から、竜騎士たちに襲われるゼロを見上げたルイズは、杖を取り出して助けようとする。 竜騎士たちはミステラー星人の術で操られている。だが魔法ではないので、『ディスペル』は 効かないだろう。ならば、『爆発』を使うか? 上手く行くかどうかは分からないが、『爆発』なら 騎士たちの縛めだけを消し飛ばせるかもしれない。 と、考えるルイズだが、彼女の行動を察したゼロは、テレパシーで呼びかけた。 『ルイズ、援護はいらないぜ!』 「えッ!?」 『コスモスとダイナから授かった力は、侵略者の姑息なたくらみよりもずっと偉大なんだよ!』 そんなことを告げたゼロは、魔法攻撃を受けながらも胸を張って立ち上がり、身体を青く輝かせる。 『ルナミラクルゼロ!』 青く変身したゼロは、周囲を飛び回る騎士たちに、手の平から発せられる光の粒子を浴びせ始めた。 『フルムーンウェーブ!』 フルムーンウェーブ。それは、荒ぶる魂を鎮める癒しの力を持つコスモスのルナモードの 特性を最も色濃く引き継いだ、ルナミラクルゼロの浄化光線。これを浴びた竜騎士たちは一斉に 動きを止め、凍りついた身体が解凍されていった。 「あ、あれ……? 俺たちは一体何をして……?」 「確か、目の前に奇妙な亜人が出てきて、それからどうなった?」 同時に正気を取り戻して、頭を振った。 『な、何ぃッ!?』 『おいおいおいおい!? 解放されちまったじゃねぇかぁ!』 一瞬で術が破られたミステラー星人と、マグマ星人が破壊活動の手を止めてうろたえた。 するとそれに目をつけた騎士たちが、状況を把握する。 「侵略者だ! 攻撃開始!」 魔法衛士隊は直ちに星人たちの方へ飛んでいき、炎や氷の槍を振るい出した。マグマ星人も ミステラー星人も集中攻撃を浴び、頭を抱える。 『うぎゃあッ! いてぇーッ! 何が宇宙戦士だ、この阿呆がッ!』 『き、貴様、このミステラー星の戦士を侮辱するか――はッ!?』 『戦士が聞いて呆れるぜ! 戦士だったら姑息な手を使わないで、正々堂々勝負しろってんだッ!』 ミステラー星人が気配を感じて振り返ると、ストロングコロナに再変身していたゼロが、 その身体をむんずと掴んでいた。そして超怪力で、頭上高く投げ飛ばす。 『ウルトラハリケーンッ!』 「ギョロロロロロ! ガアオオオオオオ!」 きりきり舞いして空高く飛んでいったミステラー星人に、ゼロが拳を振り上げてとどめの一撃を見舞う。 『ガルネイトバスター!!』 燃え上がる光線を食らったミステラー星人は、空中で木端微塵に爆裂した。 ミステラー星人がトリスタニアの空に散ったのと、テロリスト星人が撃破されたのはほぼ同時であった。 『うおおぉぉッ!? お、おのれぇウルトラマンゼロ! この借り、その内に必ず返してやるぞぉ! あいたたッ!』 連れてきた仲間を全て失ったマグマ星人は、魔法攻撃に追い立てられながら、瞬く間に 尻尾を巻いて逃げていく。背後に跳ぶと、稲光とともに黒雲の中に紛れて姿を消した。 『ちッ。逃げ足だけは速い野郎だ』 あまりの逃走の早さに、手出しできなかったゼロが舌打ちする。その脇に、ジャンボットが 近寄ってきた。 『ジャンボット、助かったぜ。ありがとうな!』 『私の力が必要な時は、いつでも呼んでくれ』 短く言葉をかわしたジャンボットは空に飛び上がり、ジャンバードに変形して宇宙へと 帰っていった。 「ジュワッ!」 それを追いかけるように、ゼロも飛び立ってトリスタニアから去っていった。 ゼロから戻った才人は、ルイズの下へと駆け戻っていく。 「ルイズ! 無事だったか?」 「うん、わたしは何ともないけど……」 久しぶりに才人に心配されたような気がして、やや赤くなるルイズ。しかし、すぐに辺りを 見回して顔を曇らせる。 「でも、街の被害が広がっちゃったわね……」 「そうだな……。くッ、宇宙人どもめ、やってくれるぜ……!」 マグマ星人とミステラー星人が暴れたことで、トリスタニアの被害は拡大し、壊滅した地域が 広がってしまっていた。より痛ましくなった街の光景を目の当たりにして、才人は歯ぎしりして悔しがった。 だがここで、ルイズが疑問を口にする。 「でもあの宇宙人たち、本当に何が目的なのかしら? 戦闘の最中にわざわざ敵から目を離してまで、 街を壊して何の利益があるの?」 「確かに……」 マグマ星人たちはゼロへの攻撃のチャンスを捨てて、街を蹂躙した。挑発行為とも取れるが、 それよりゼロに直接ダメージを与えた方が早いだろう。ルイズと才人はマグマ星人たちが街の破壊に こだわる理由を掴めず、首を傾げた。 だがいくら考えても、答えは出てこない。そこで才人がため息を吐いて、ひと言提言した。 「とにかく、敵はとりあえず退けたんだし、城へ戻ってお姫さまに報告しよう」 「うん、そうね」 「どうやら無事に帰れそうだなぁ。相棒も、娘っ子も、もう一人の相棒もご苦労さん」 二人が足を王宮へと向けると、デルフリンガーが彼らの奮闘を労った。 王宮のアンリエッタの下へと戻ってきたルイズたちは、彼女に爆弾魔の正体がやはり侵略者で あること、爆発の現場で交戦したことなどを報告した。 「そうでしたか。ルイズも使い魔さんも、よく戦ってくれましたね。市民に成り代わり、 お礼を言わせて下さい」 「そんな、もったいないお言葉です。結局は、ウルトラマンゼロに助けられましたし」 感謝の気持ちを寄せるアンリエッタに、ルイズが謙遜した。才人がゼロであることは、 アンリエッタにも秘密のことだ。 「それでもです。被害を最小限に食い止められたのは、あなたたちの活躍もあってのことだと わたくしは思っています。本当にありがとう」 「いやぁ、そんなぁ」 「こら、はしたないわよ!」 あまり褒められるので才人が頬を緩ませると、ルイズに咎められた。 「もう日も暮れます。今宵はこの王宮に留まって、疲れをゆっくりと癒して下さい」 「ありがとうございます、お姫さま」 アンリエッタの申し出に感謝の言葉を言う才人。それに続いて、ルイズも礼を口に出す。 「ありがとうございます、女王陛下」 「そんな、いいのですよルイズ。大切な友人までも、危険に晒そうとするような愚かなわたくしに、 せめてもの償いをさせてちょうだい」 アンリエッタは、まだルイズに危険な任務を任せていることに引け目を感じているようだった。 そのため、ルイズが反論する。 「わたしたちは、この前申し上げた通り、自分の意思で行動しています。姫さまが悪いことなど、 一つもありません」 「うん……。ありがとう、ルイズ」 ルイズの言葉に、アンリエッタは一瞬、親しい友人としての顔を見せた。しかしすぐに、女王の顔つきに戻る。 「では、わたくしは色々と後始末をせねばなりませんので。これで失礼します」 アンリエッタが謁見の間から退出すると、ルイズと才人も二人を待っているシエスタたちの下へと移動していった。 王宮の客室に移ると、待っていたシエスタと春奈がすぐに席から立ち上がった。 「サイトさんッ!」 「平賀くんッ!」 「やぁ、二人とも無事だったか?」 才人が一番に聞くと、シエスタがうなずき返した。 「はい。お城の兵士さんがちゃんと避難させてくれましたから」 「平賀くんは大丈夫だった?」 「大丈夫。あってもかすり傷くらいだから」 春奈に才人が答えると、ルイズが春奈に声を掛ける。 「姫さまのお話、ハルナのことじゃなくてよかったわね」 「ありがとうございます、ルイズさん。お礼だけでも言わせて下さい」 学院でも王宮でも弁護しようとしてくれたルイズに感謝の念を寄せる春奈。 「別にいいわよ、気にしてないから。これで、ハルナのことに関して魔法学院と王宮は解決した訳だけど。 でも、まだ、問題は残ってるわ」 「はぁ? まだ、何かあるのかよ?」 唐突なルイズの言葉に、才人が怪訝な顔を作る。 「ええ、そうよ。これは極めて重大な問題よ」 「それは一体何なんですか?」 シエスタが尋ね返すと、ルイズはキッパリと言った。 「それはお金よ。平民とはいえ、女の子が一人増えたのよ? 今の生活費だけじゃとても足りないわ」 「へぇ~。ボクとはえらい待遇の違いですねぇ、ご主人様」 才人が嫌味を唱えたが、ルイズは何食わぬ顔。 「あら、何か思い違いをしてるようね? あなたは使い魔でしょ。そんなの、当たり前じゃないの」 「……」 憮然とする才人だった。 「使い魔を養っていくのは飼い主の務めだから。それはいいんだけど。でも、ハルナは……」 「そうですね。早く私の問題が解決すればいいんですけど……」 「ホント、そうだよなぁ……」 才人が心から同意したが、現実はそう行かないのだから仕方ない。春奈の生活費で困っていると、 シエスタがこんな提案をした。 「あッ、そうですよ! ハルナさん、わたしたちと一緒に魔法学院で給仕の仕事を手伝いませんか?」 「おおッ……。そうか、その手があったじゃないか!」 妙案だと才人が賛同したが、春奈自身は逡巡する。 「う~ん。でも私、身の回りのことは、全て親に任せっきりだったから。本当に、何か出来るかどうか……」 「そんなこと、心配いりませんよ。みんな優しくて親切な方ばかりですから。一つずつ、 丁寧に教えてくれます」 自信のなさそうな春奈を、シエスタが励ました。 「ハルナさんがもしその気になったら、いつでも声を掛けて下さいね」 「はい……。ありがとうございます」 最後の問題もひとまずは片づいたようなので、ルイズたちはその日はもう休むことにした。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9463.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百六十二話「ハルケギニアはウルトラマンの星」 死神 最強合体獣キングオブモンス 巨大顎海獣スキューラ 骨翼超獣バジリス 根源破滅天使ゾグ 登場 根源的破滅招来体。それはある次元宇宙の地球を外宇宙より突如として襲った、謎の存在。 ワームホールから送り込まれた宇宙戦闘獣コッヴを皮切りに、様々な種類の怪獣による攻撃、 電子生命体や精神寄生体を用いた工作活動、人間に対する洗脳などの心理攻撃、果ては天体生物に よって地球そのものの破壊を狙うといった、ありとあらゆる手段で地球人類の抹殺を目論んだ。 その正体は、最後まで不明のままであった。どんな姿をしているのか、本拠地はどこなのか、 何故執拗に人間の抹殺を図ったのか、その全てが今もなお謎に包まれている。しかし地球に生きる ものたちが根源的破滅招来体の最大の戦力を撃破して以降は、一度の例外を除いて地球にその魔の 手が伸ばされることはなくなった。地球は救われたのである。 ――だが、やはり根源的破滅招来体そのものが壊滅した訳ではなかった。今度は次元震によって 一時的につながった別宇宙にある惑星ハルケギニアを狙い、再度活動を再開したのであった! その尖兵として送り込まれた死神は、強烈な破滅願望を抱いていたジョゼフに目をつけ、アルビオンを 通してヤプールを裏から利用させたり、願望を実現する赤い球を授けて次々と怪獣を召喚させたりと いった支援を……いや、いいように利用していた。そして今、弟の真実を知って心を入れ替えた ジョゼフに見切りをつけ、彼を粛清するとともに遂に自らが人類絶滅に乗り出した。 しかし根源的破滅招来体と同じ宇宙から、次元を超えて希望がやってきた! 彼らの名は ウルトラマンガイアとウルトラマンアグル。根源的破滅招来体に正面を切って戦い、長い苦闘の 末に勝利をもぎ取った英雄なのだ。 ガイアとアグルはハルケギニアの人々の命を守るために、ゼロとともに今再び根源的破滅 招来体の陰謀に立ち向かうのである! 「デュワッ!」 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 「デアァッ!」 「キイイィィッ!」 「セェアッ!」 「キ――――――――!」 次元の彼方の地球から時空を超えて、ハルケギニアを救いに来てくれたガイアとアグル、 それと並んだゼロが同時に三体の怪獣に飛び掛かっていった。怪獣たちはウルトラ戦士一人 ずつを迎え撃ち、それぞれ一対一の構図となる。 ガイアが突進してくるキングオブモンスの首を抑えて止め、アグルが素早くスキューラの 上にまたがって頭頂部に拳を打ち込み、ゼロはデルフリンガーを召喚してバジリスのカマと 鍔迫り合いする。 「すごい! 三人ものウルトラマンが怪獣と戦ってる!」 「あの二人もゼロの仲間だろうか!」 「そうに決まってるさ! 行けぇウルトラマンッ! 怪獣を倒せぇーッ!」 怪獣軍団の脅威に見舞われていたロマリア、ガリア両軍の兵士たちは三人のウルトラ戦士の そろい踏みに興奮し、互いに立場を忘れてゼロたちの応援の声を力いっぱいに飛ばしていた。 シルフィードの上のルイズも歓喜しながらも、ガイアとアグルの参戦に非常に驚いていた。 「この状況に助けに来てくれるなんて! 彼らはどこから来たウルトラ戦士なのかしら?」 「……」 タバサは呆けたように、しかし頬をかすかに朱に染めて、特にガイアの勇姿に見入っていた。 「オアァァァ―――――!」 「キイイィィッ!」 スキューラを抑え込んだアグルがヒコーキ投げを決め、地面に盛大に叩きつけた。反撃に 転ずるかと思われたアグルだが、予想に反し背を向けたまま一直線に逃走していく。 「フッ!?」 「キイイィィッ!」 スキューラはリネン川の下流へ向かって走っていき、川が一旦途絶える湖畔に飛び込んだ。 アグルはそれを追いかけて飛び、自らも湖の中に突入する。 「デェェアッ!」 「キ――――――――!」 ゼロの剣圧に押されたバジリスは、急に羽を広げて飛翔。高スピードではるか上空へと 上昇していく。 『待ちやがれッ!』 ゼロはデルフリンガーを戻して追跡。ぐんぐんと高度を上げていくバジリスとゼロが、 ルイズたちの前方を通り抜けていった。 「きゃッ!」 一瞬発生した気流に煽られるルイズたち。バジリスとゼロはそのままどんどん小さくなって いき、遂には大気圏を抜けて宇宙空間に戦いの場所を移した。 「ゼロも、青いウルトラマンも行っちゃったわ……!」 アグルとゼロがルイズたちの目の届かない場所へ移動していったことで、人間たちの視線は 自ずと、ガイアとキングオブモンスの対決に集まることとなった。 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 「デュッ!」 自身に肉薄しているガイアに、キングオブモンスは腹部に縦二列に並ぶ牙を伸ばして突き 刺そうとする。だがガイアはその牙をはっしと受け止めた。 「オオオオオ……! デヤァァッ!」 そして牙を掴んだまま、キングオブモンスの巨体をバックドロップ! 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 「おぉぉッ!」 脳天から叩きつけられるキングオブモンス。戦いを見守る人間たちからは一斉に驚嘆の 声が発せられた。 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 すぐに起き上がったキングオブモンスはクレメイトビームで反撃。しかしそれを読んでいた ガイアのウルトラバリヤーがビームを乱反射して防ぎ切る。 最大の攻撃を防がれたキングオブモンスが一瞬たじろいだ。 「デュアッ!」 「キイイィィッ!」 湖中ではアグルが反転して突っ込んできたスキューラを、相手の顎を押さえて止めるが、 その瞬間にスキューラの顎は何と胴体の半分以上の位置まで開き、常識外の大口でアグルを くわえ込んだ。 「ウアァッ!?」 顎の中に引きずり込まれたアグルは万力のような締めつけと牙の食い込みでギリギリ痛め つけられる。……しかし、アグルのボディは数いるウルトラ戦士の中でも突出した強固さを 誇るのだ! 「デアァッ!」 スキューラの締めつけを耐え切って上顎を押し返し、見事脱出。スキューラから距離を 取るとすかさず額からほとばしる光線を頭上に伸ばした。 「デュアァァァッ!」 その光線をスキューラに叩きつけるように繰り出す! アグルの必殺技の一つ、フォトン クラッシャーだ! 「キイイィィッ!!」 フォトンクラッシャーを口内に撃ち込まれたスキューラは、一瞬にして粉々に吹っ飛ばされた! 「キ――――――――!」 「シャッ! シェアッ!」 宇宙空間でゼロとドッグファイトを展開するバジリスは光球を連射。それにゼロはゼロスラッガーを 飛ばし、切り裂いて全て撃ち落とす。 「キ――――――――!」 光球を破られたバジリスだがそのまま加速。カマをギラリと光らせながら最大速度でゼロに 突進していく。すれ違いざまに真っ二つにする気か。 だがそんなものをむざむざと食らうゼロではなかった。 「セェアァァァッ!」 相手の狙いを読んで、渾身のワイドゼロショットを発射した! 必殺光線がバジリスの 顔面に突き刺さる! 「キ――――――――!!」 バジリスは全身が炎上して進路がゼロから外れ、ハルケギニアの引力に捕まって転落。 地上に戻ることなく、大気圏で盛大に爆散した。 スキューラとバジリスが立て続けに撃破され、残る怪獣はキングオブモンスのみ。そして ガイアもまた勝負を決める大技に打って出ていた。 「オォォォォ……デュワアァァッ!!」 うずくまるように頭部を抱えて姿勢を下げると、ガイアの頭部に光子が集まって弁髪の ようなムチの形状となる。それを敵に対して一挙に繰り出す、光の斬撃フォトンエッジだ! 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 これに対してキングオブモンスは翼から発生したエネルギーシールドで全身を覆って防御。 フォトンエッジはバリアと拮抗するが、 「ジュワアァァァッ!」 ガイアが更にエネルギーを注ぎ込んだことで、フォトンエッジはバリアを突き破って キングオブモンスに命中! 「ヴォオオオオオオオオオオ……!!」 全身をズタズタに切り裂かれたキングオブモンスはその場に崩れ落ちて、大爆発の中に 消えていった。 「やったあああぁぁぁぁぁぁぁッ!」 「怪獣を全て倒したぞぉぉッ!」 一時は比喩でなく空を埋め尽くしていた怪獣軍団が全滅したことに、人間たちは一斉に 大歓声を巻き起こした。その声を一身に受けているガイアの元にアグルとゼロも戻ってきて、 勝利を確認するようにうなずき合う。 だがしかし……怪獣たちはあくまで呼び出されたものに過ぎないことを忘れてはならない! 『これで終わりではないぞぉッ!』 突然、人々の喜びをさえぎるような叫声が起こった。ゼロたちが、ルイズたちがその方向へ 顔を向けると……。 「あッ! さっきの奴! まだあいつが残ってたんだったわ!」 空の一角に死神が浮遊していた。その存在に気がついたゼロたちは警戒を強めて身構える。 ガリアに潜んでいた真の悪は、憤怒の表情を見せたままガイアたちに向かって怒声を放つ。 『憎きウルトラマンどもめ……再び我々の障害となろうとは! 貴様らさえいなければ上手く いったというのに! 許してはおけぬッ!』 と叫ぶ死神の頭上の空間が歪み、ワームホールが開かれる。しかもそれは、ガイアとアグルが 通ってきたものの十倍以上ものサイズであった! 「ウッ!?」 『今度こそ貴様らを、踏み潰してくれるぞぉぉぉぉッ!!』 死神はそのワームホールの中に飛び込んでいった。その直後に! 「キャア――――――――――ッ!!」 ウルトラ戦士たちをはるかに上回る超巨体の怪獣がワームホールから地上に落下! カルカソンヌの一画を丸ごと潰して崩壊させてしまった! 「何だあれは!? で、でかいッ!!」 「あんなのがまだ残っていたとは……!」 怪獣の異常な巨体に度肝を抜かれる人間たち。ただでさえ途轍もない大きさなのにケンタウロス 型の体躯が威圧感を高めている図体に、カラフルだがおぞましい雰囲気を湛えた翼、顔貌はどこか 怒りと憎しみに猛っているように見える。そして全長は地球の単位で666メートル、終末を暗示する 獣の数字を持ったこの怪獣の名は、根源破滅天使ゾグ! かつてガイアとアグルがなす術なく叩き 潰されたほどである根源的破滅招来体の最強の戦力であり、しかも今回は初めから真の姿である 第二形態であった! 『忌々しいウルトラマンどもめぇ! 醜い人間どもと一緒に滅びてしまえぇぇぇぇッ!』 死神はこのゾグと融合し、その中からウルトラ戦士に怨嗟の言葉を浴びせてきた。 「キャア――――――――――ッ!!」 死神の叫びを合図とするように、ゾグが衝撃波を連続で飛ばして攻撃してくる。 ゾグにとっては通常攻撃だが、あまりのサイズ差故に一発一発がゼロたちの身長を超える 規模である! 「ウワアアアアァァァァァァァッ!!」 三人のウルトラ戦士はたちまちの内に衝撃波の引き起こす爆発の中に呑まれて、姿が見えなく なってしまう……! 「あぁッ! う、ウルトラマンたちがッ!」 アンリエッタを始めとしたほとんどの人間が、まさしく地獄絵図に顔面蒼白となった。 だがルイズは違った! 「姫さま、大丈夫です!」 ルイズはこの状況においても力強さが消えない声で呼びかけた。 「ゼロたちは……どんな逆境に立たされても決して負けません! それが、ウルトラマン なのですから!」 「ジュワッ!!」 その言葉を肯定するように、爆発の中からゼロたち三人が勢いよく飛び出してきた! そのままゾグに向かって、少しの恐れも抱かずに飛んでいく。 「おぉーッ!」 ウルトラ戦士の、巨大な絶望にも屈しない頼もしい姿は人々の心に希望を取り戻させた。 「セェェェェェェアッ!」 「デュワァッ!」 「ドゥアァッ!」 ゼロはツインゼロソードDSを握り締めてゾグの全身に纏わりつくように飛び回り、剣を 振るって裂傷を走らせる。ガイアはクァンタムストリームをゾグの背面に浴びせ、アグルは 地上からリキデイターに回転を加えたフォトンスクリューを放ってゾグの身体を穿っていく。 「キャア――――――――――ッ!!」 ゾグは三人を叩き潰そうと己の肉体を振り回すものの、ゼロたちは攻撃の手を止めないまま ゾグの肉体をかわす。恐怖に負けない心を有する戦士たちには、どんな巨躯で襲い掛かろうとも 脅しにはならないのである。 ゾグの手はゼロたちをまるで捕らえられず、ダメージは蓄積されていくばかり。それに 苛立つように死神がゾグの中から怒号を上げる。 『ウルトラマン! 何故貴様たちは人間に寄り添う!』 ゾグのガイアを捕まえようとする手が空振りする。 『人間! つまらない生き物ッ! 生きる価値など、どこにもないッ!』 傲慢さをありありと含ませて喚く死神に返すように、ゼロが断言する。 『別に理由なんてねぇよッ!』 ウルティメイトブレスレットが光り、弓型のウルティメイトイージスになった。ゼロが 光の弦を引き始めると、後ろに回ったガイアとアグルがエネルギーをイージスに送る。 『ずっと昔からそうやってきた……!』 三人の力が一つになることで瞬く間にエネルギーが充填され、ゼロがゾグに向かって ウルティメイトイージスを射出! 『ただ、それだけのことだぁッ!!』 ファイナルウルティメイトゼロ・トリニティがゾグに命中し――貫通。超巨体にドでかい 風穴を開けた! 「キャア――――――――――ッ!!!」 ゾグは自重を支え切れなくなり崩壊。全身至るところが弾けて消え失せていく。 『ぬああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――ッ!!!』 ゾグと融合した死神も道連れとなり、これで本当にハルケギニアから根源的破滅招来体の 勢力は消滅したのだ。 「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――――――ッ!!」 ウルトラ戦士の完全勝利を見届けた人間たちは自然と息をそろえて、割れんばかりの大歓声を 上げた。今この瞬間は、誰の立場も関係なく、皆の顔に希望の輝きが宿っていた。 『お前みたいなのが人間の価値を語るなんざ……二万年早いぜ』 皆の歓声の下、ゼロの決め台詞がこの大決戦の幕を下ろした。 ガリアの激戦に決着は着いたものの、人間たちは一連の戦いの流れに興奮が冷めやらぬ 様子であった。いや、しばらくは口伝てにウルトラ戦士の活躍が伝播して、騒ぎはむしろ 拡大していくかもしれない。 そんな人間たちの喧騒の間隙を見つけて、才人たちは変身を解いた我夢、藤宮の両名と 対面していた。 「ありがとうございます、ガイア、アグル。あなたたちのお陰で戦いに勝ち、この星を救う ことが出来ました」 才人が代表して我夢、藤宮と固い握手を交わす。それに続いてルイズ、アンリエッタ、 ミラー、グレンが二人に呼びかける。 「本当に助かったわ。この恩は決して忘れないわ」 「あなた方が救って下さったこの世界、必ずや平和に導くことをお約束致します」 「M78星雲以外のウルトラ戦士、お会い出来て光栄です」 「すぐに帰っちまうのが寂しいくらいだぜ」 我夢と藤宮は一人ずつの手を取って握手を交わしていく。 「ありがとう。みんなのあきらめない心があれば、どんな敵が来ようとも世界は滅んだりはしない!」 「どんな絶望にぶつかっても、決して折れないで立ち上がるんだぞ」 最後に我夢の前に立ったのは、タバサであった。 「君は、確か……あの森にいた……」 タバサは少し気外そうにしながらも、コクリとうなずいた。そして手を差し出し、小さい 声ながらもはっきりと告げる。 「ありがとう……」 「……うん! 君も、何だか色々と事情があるみたいだけれど、最後まであきらめずに頑張ってくれ!」 我夢は彼女の手を握り、満面の笑みを向けた。 そして我夢たちとの別れの時。二人がアドベンチャーに乗り込み、元の世界へと帰還して いくのを、才人たちが微笑みながら見送る。 「ありがとなのねー! いつかまたお会いしましょうなのねー!」 「パムパムー!」 シルフィードとハネジローが大きく手を振る中、アドベンチャーは我夢と藤宮を乗せて、 彼らの世界へと帰っていったのだった。 こうしてまた一つの大きな戦いが終わったのだが、まだハルケギニアが平和になったとは 言い難い。むしろ、人間という種族の中での一番の障害が消えて、ロマリアは更に聖戦を 推し進めようとすることだろう。エルフとの関係も、まだどうなるか分かったものではない。 次の戦いの火種は既にくすぶっているのかもしれない。 しかし、才人たちは決して負けない。次にどんな敵が現れようとも、心の中に光を持ち 続けることを、時空を超えてやってきた勇者たちに誓ったのだから。 彼らはいつかハルケギニアを、ウルトラマンのような光が瞬く星にするのだと心に定めた のであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9115.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第三十六話「怪しい職人」 ロボット怪獣ビルガモ 異次元宇宙人イカルス星人 四次元ロボ獣メカギラス ロボ怪獣メガザウラ 侵略変形メカ ヘルズキング 登場 トリスタニアの住宅街。怪獣たちの襲撃や宇宙人の攻撃、更には爆弾事件により街の各地が 見るも無残に破壊されたが、幸いなことにゴルドンから採取された黄金が豊富にあり、 その一部を復興資金に充てることで、再建が急ピッチで進められていた。ただ、職人の手が トリステイン国だけでは全く足りなかったので、国外から職人を大勢招いての再建となっている。 そしてその日々の中で、住宅街に暮らす少年が寝室から、隣の復興現場に建てられた仮設住宅を 長いこと観察していた。彼は怪獣の脅威からウルトラマンゼロに救われて命は拾ったのだが、 足を骨折して自宅で療養している。しかしその中で、仮設住宅の職人が不審な行動を見せていることに 気づいたのだ。 彼の視線の先の、仮設住宅内の職人の影は、長時間座ったままであった。 (あの男、何をしてるんだろう? あそこに座ったまま、もう24時間になる。いつ食事をするんだろう? 僕が眠ってる間に眠り、食事をしたんだろうか? いや、僕は何度も目が覚めた。あの男はずっと 座ったきりだ。何をしているんだろう……。何か作ってるぞ。何を作ってるんだ?) 少年は職人の手元にあるものをよく観察しようと身を乗り出したが、職人のいるところは薄暗く、 彼の視力では何なのか確認することが出来なかった。 職人の手元では、怪しい発光体が規則的な点滅を繰り返していた。 ウェザリー主導による演劇から数日後。侵略者たちの起こす連続爆発事件の調査を続行した ルイズたちだったが、結局成果はなし。そのため仕方なく、学院に帰還することになった。 だがルイズと才人は、アンリエッタからの招集により、すぐにまた王宮へ向かうことになった。 何でも、火急の用事なのだという。もしや、連続爆発事件に何か進展があったのか。ルイズと才人は はやる気持ちを抑えて、王宮のアンリエッタの下へと駆けつけた……。 「皆さん、これをご覧下さい」 アンリエッタは王宮の会議室で、ルイズや才人、他多くの軍人に見えるように、テーブルに 一枚の大きな地図を広げた。 王宮に到着したルイズと才人はすぐに、大勢の将校が集められた会議室に通された。 二人が会議に混ぜられるや否や、アンリエッタは爆破事件についての会議を開始した。 「これはこの王宮の所在地、トリスタニアの地図です。知っての通り、現在トリスタニアでは 侵略者による爆破事件が相次いでいます。しかし、現場はほとんどが戦略上の価値が全くない ところばかり。実に不可解な行動です」 「相手はどこから現れたかもよく分からん連中。そんなのの考えることですから、我々では 予想もつかないようなものなのではないでしょうか?」 一人の将校がお手上げだと言わんばかりにぼやいたが、アンリエッタは首を横に振る。 「安易に決めつけるのはいけません。わたくしは敵の意図を探るべく、密かに街に降りて 調査をしていました」 今の言葉で、才人は劇場にアンリエッタが現れた理由を悟った。彼女もまた、ルイズたちだけに 任せるのではなく、自ら独自調査を進めていたのだ。 「その結果、爆破事件の理由について、一つの仮説が出来上がりました。まずは、今までに 起きた事件の現場を地図に記します」 皆の視線を地図に戻すアンリエッタ。 「最初にここ、次にここ……。皆さん、何かに気づきませんか?」 全ての現場に相当する部分を赤色で塗り潰すと、皆に尋ねかける。ルイズが一番に察した。 「現場の全てが……王宮から同じ程度離れた場所ですね」 ルイズが今言った通り、事件現場は全てが、王宮から等間隔の地点で発生していたのが、 地図に印すことで判明した。アンリエッタはうなずく。 「その通りです。しかし、破壊された場所はこれで全てではありません。怪獣やウチュウ人自らが 蹂躙した場所も、ここに描き込むと……」 先に現れたアボラス、バニラ、グランゴン、ラゴラスの四大怪獣やマグマ星人たち宇宙人連合の者に 破壊された場所にも色がつけられると、全員が驚愕した。 「壊されたところが、この城を取り囲んでる!」 才人の叫びに首肯するアンリエッタ。 「そうです。爆破事件は、街の破壊された箇所を繋ぐようにして起きていたのです。ただの 偶然とは思えません」 全ての街の壊された部分が赤く塗られると、王宮が360度、赤色で囲まれていることが明らかになった。 だがこれに関して、ルイズが疑問を上げる。 「偶然ではないとしたら、一体……?」 これだけではまだ、宇宙人連合が何のためにそんなことをしたのかが不明だ。それを尋ねると、 アンリエッタは話を変えた。 「今回の爆破事件の現場を修復するに当たり、この国の職人たちだけでは人手が足りません。 故に国外の者も多く呼び入れられています。わたくしが確かめたところによると、その国外の 職人たちは非常に仕事が早く、我が国の者をはるかに上回る腕前なので、今やほとんどの場所の 修復を担当しているとか」 それだけ聞くと良いことのように思えるが、アンリエッタは眉間を寄せる。 「しかしその者たちは全員、素性が完全に不明で、現地の者と親交を全く取らないとのことです。 更に、修復の合間に何やら不審な動きを見せているという話も何人もの人の口から聞きました」 アンリエッタの話した内容で、ルイズが顔を青ざめた。 「それってつまり、その職人たちは、ウチュウ人たちの送ってきた工作員ということでしょうか……!?」 「その可能性は十分にあります。最初に都を破壊し、それを直す職人を装ってトリスタニアに 堂々と侵入する作戦。それが、爆破事件の真相なのでは……。職人を装えば、何らかの危険物を 組み立てていても、家屋の修繕に見せかけてごまかすことも出来るでしょう」 「馬鹿な! ありえませんぞ!」 将校の一人が、信じられないというより認めたくないという様子で叫んだ。 だが、それを否定するかのように、直後に激しい揺れと轟音が会議室を襲った。 「きゃあッ!?」 「な、何事だ!?」 ルイズらが悲鳴を上げると、衛兵が会議室に駆け込んできて、泡を食って叫んだ。 「ほ、報告します! 先般の爆破事件のあった現場に建てられた家屋が崩壊し……金色の、 奇怪な金属製の建造物が出現しました!」 「何ですって!?」 耳を疑うばかりの内容に、アンリエッタやルイズたち、将校らは我先にと廊下に飛び出して、 窓から外の光景を確認した。 果たして、衛兵の報告通りの光景がそこにあった。トリスタニアの街並みの真ん中に、 正面の中央部分に、先に行くほど細くなっている円筒を張りつけたような窓のないビルらしき 物体がそそり立っていた。明らかに中世風のトリスタニアの風景に似つかわしくない高層建造物だ。 しかもその建造物に、どこからか飛んできた棒状のロケットと目玉のような円盤がジョイントした。 そして建造物が火を噴いて浮き上がると、その下に二本の巨大な鋼鉄の柱が入り込み、それとも結合して 柱を脚部に変えた。 全ての合体手順が済むと、奇怪な建造物は黄金色の巨大ロボットへと姿を変えた。ルイズが 声を張り上げる。 「あの合体の方法……タルブ村で見た、ウチュウ人の巨大ゴーレムに似てるわ!」 ゼロはロボットの正体を知っていた。 『あいつはビルガモ! 完成まで建築物に成り済ます、破壊活動用ロボット兵器だ! あれをトリスタニアに持ち込む計画だったって訳か……!』 これが、宇宙人連合の恐るべき作戦であった。卑劣極まるロボット怪獣ビルガモ作戦。 ビルガモは、トリスタニアの街の全滅、王宮破壊、トリステインの全国民と、ウルトラマンゼロの 壊滅の使命を帯びた、悪魔の使者であったのだ。 ビルガモは頭頂部のアンテナから破壊光波を発射し、足元の家屋を複数ひとまとめに爆破した。 街はたちまち市民たちの悲鳴に包まれる。 「何てこと! 直ちに魔法衛士隊を迎撃に出すのです! どうにか被害を抑えて!」 アンリエッタが急いで命令を下すが、衛兵が冷や汗を垂らしながら返した。 「それが、あまりに突然で前兆のないことでしたので、まだ招集も出来ておりません!」 「そんな!?」 「非常事態は、これだけではありません!」 衛兵はもう一つ、悪い知らせをもたらす。 「ゴーレム出現に前後して、レコン・キスタの空中艦隊がトリステインを目指して動き始めたと、 偵察隊からの報告が!」 「何だと! レコン・キスタめ! 先日の大敗をもう忘れたか!」 将校の一人が憎々しげにうめいた。 「現在の位置から推測するに、艦隊がトリステインの領空に入るまで、二日と少々という 結果が出ています! そちらも今から対処せねば、迎撃が間に合わなくなり、領土に侵入されます!」 「何てこった……!」 動揺して舌打ちする才人。空中艦隊にトリステインに侵入されたら、シエスタの故郷の タルブ村がまたも焼かれてしまう。アンリエッタも二つの脅威に同時に迫られ、表情を歪ませた。 「……仕方ありません。こちらの空中艦隊をラ・ロシェールに配備、残る部隊は全てゴーレムの 迎撃と住民の避難誘導を! この二つを同時に進行させるのです! 急いで!」 「はッ!」 命令を受けた将校たちは慌ただしく会議室前から散っていった。 「アニエス、あなたも銃士隊を率いて、トリスタニアの部隊の応援に!」 「はッ!」 アンリエッタは側近のアニエスも送り出した。その後で、ルイズがアンリエッタに呼びかける。 「姫さま、わたしたちにもご命令を!」 振り返ったアンリエッタは、彼女と才人には次の命令を出す。 「あのゴーレムも、通常手段では歯が立たないような強敵でしょう。ルイズには最終手段として、 『虚無』の魔法でゴーレムを破壊する任を与えます。使い魔さんはルイズを守って下さい」 「かしこまりました! すぐに現場に赴きます。わたしの『爆発』に掛かれば、あんな鉄人形なんて……!」 血気にはやるルイズだが、アンリエッタにそれを押し留められる。 「お待ちなさい。これだけの前準備を掛けた作戦です。敵戦力が、今いるだけではない恐れが 十二分にあります。そのため、最終手段と申しました。本当に後がないほどの状況になるまで、 『虚無』を使用してはなりません」 「そ、そうですか。申し訳ございません。早計でした」 過ちを認めて謝るルイズ。『虚無』の魔法は威力が絶大な分消耗がひどく、連発が出来ないことは アンリエッタも把握していた。 「分かってもらえたのなら、早く街へ。この王宮も安全とはいえません」 「承知しました!」 アンリエッタに促されて、ルイズと才人はその場を離れる。二人きりになったところで、 才人がルイズに首を向けた。 「ルイズ、気張る必要はないぜ。俺たちには、ゼロがついてるじゃないか」 『ああそうだ! ビルガモの一体や二体、この俺が侵略者のたくらみごと粉砕してやるぜ!』 才人とゼロの呼びかけにうなずき返すルイズ。 「そうだったわね。ゼロ、お願い! トリスタニアの人々を守って!」 『もちろんだ! 行くぜ才人!』 「ああ! デュワッ!」 才人は即座にウルトラゼロアイを装着した。彼の身体が青と赤の光に変わり、王宮を飛び出していった。 ビルガモはトリステイン軍の抵抗をものともせず、破壊光波を放ち続けて街を火の海に変えていた。 その破壊の勢いは怒濤の如くで、火の手はビルガモの周囲一面を丸々包んでいる。 その暴威を阻止し、人々の命を救う使者が今、ビルガモの面前に降り立つ。ウルトラマンゼロが 炎の中に立ったのだ。 「あッ! ウルトラマンゼロだ!」 火に追われて避難している人々は、ゼロの姿を目にすると、絶望の表情が一瞬に希望の顔つきに変化した。 ゼロはそれに応えるために、果敢にビルガモに向かっていく。ビルガモもまた、攻撃の矛先を街から 最大の障害に切り替えて、ガコンガコンと駆動音を鳴り響かせながら突進していった。 そして激突する両者。その結果は、ゼロが弾き飛ばされるという形になった。 『ぐッ! 重い……!』 ビルガモは元々、宇宙有数の科学力を持つバルタン星人が設計したロボット。その性能は、 あのキングジョーにも匹敵するほどと言われる。ロボット特有の超重量を全て乗せた突進攻撃の威力は、 ゼロを易々と押し返すほどであった。 そしてビルガモはよろめいたゼロに、破壊光波とボディ中央の発光部、腕の先端からの フラッシュ光線をひたすら浴びせ出した。雨あられの攻撃による爆発が、ゼロを呑み込んでいく。 『うおおぉぉぉッ!』 絶え間ない光線の連射に、ゼロは瞬く間に追い詰められる。その火力は、ゼロの脚に火を点けるほど。 ゼロは側転することで脚の炎を振り払った。 『はぁ、はぁ……くそッ、あんまりなめるんじゃねぇッ!』 炎と熱に炙られて早くも息切れするゼロだが、反対に思考は冷静になり、逆転のチャンスを探る。 そしてビルガモのアンテナから破壊光波が発射される寸前に狙いをつけた。 『今だぁッ!』 破壊光波の軌道を読み、その上にウルティメイトブレスレットを乗せる。するとブレスレットが 光波を反射し、ビルガモ自身のボディに命中した。 発光部に当たり、ビルガモは自分が炎に包まれた。バタバタ右往左往している隙をゼロはもちろん逃さない。 素早くストロングコロナゼロに変身し、ビルガモをがっしりと掴んだ。 『うおりゃあああぁぁぁぁッ!』 ストロングコロナゼロはビルガモを軽々と持ち上げ、地面に投げつけた。背部から叩きつけられた ビルガモがフラフラ起き上がっている間に、ゼロはゼロスラッガー投擲の態勢を取る。 「シェアッ!」 ふた振りの宇宙ブーメランが宙を切り裂いて飛び、ビルガモの両腕も接合部から切断した。 ビルガモは強固なボディを持つが、関節部も頑丈とはいかなかったようだ。 『これでフィニッシュだぁッ!』 腕を失いよろめいているビルガモに、ゼロは必殺のワイドゼロショットをお見舞いした。 発光部に食らったビルガモはその部分から爆発を起こし、仰向けに倒れて完全に動かなくなった。 強敵相手でも勢いに乗ったままあっと言う間に勝利したゼロ。が、彼の勘は、これで戦いが 終わりとは告げていなかった。修復現場の仮設住宅の一つに目をつけると、指を突きつけて叫ぶ。 『ビルガモを操作してた電波は、そこから出てるな! 姿を現しな、侵略者ッ!』 と叫ぶと、仮設住宅から白い煙が噴き上がり、不気味な笑い声が沸き起こる。 『イカカカカカ! さすがはウルトラマンゼロ。よく我輩がここにいると分かったじゃなイカ!』 白い煙の中から現れたのは、灰色の肌で耳がやたらと大きい魚面の巨大宇宙人だった。 首の周りには髪と髭が一体化したかのような黒い毛が肩と胸に掛けて茂っており、何故か両手を 顔の位置まで高く挙げている。侵略者のはずだが、どことなくコミカルな印象すら受ける容姿だ。 『どうも。我輩、ビルガモ作戦の責任者のイカルス星人です』 侵略者イカルス星人は、実際とぼけているような口調で名乗った。ゼロは相手に人差し指を突きつける。 『イカルス星人! お前らの作戦は失敗だ! とっとと宇宙に帰りなッ!』 そう言いつけると、イカルス星人は突然哄笑を上げた。 『イカカカカカ! イカカカカカ! イカカカカカカカカカッ!! お腹痛い』 『何がおかしい!?』 ゼロが問い返すと、イカルス星人は笑いを止め、告げる。 『まだ勝った気になるのは早いんじゃなイカぁ? 勝負はまだ一回の表! 逆転こそ我が命! ビルガモは前座。本番はここからじゃなイカ!』 『何だと!』 イカルス星人の宣言の直後に、街に次々と異変が発生した。 「キィ――――――!」 ゼロたちがいる東地区から離れた北地区に、何もない虚空からぬっと、恐竜型怪獣をそのまま 機械にしたかのようなロボット怪獣が出現した。バム星人製の異次元移動機能のあるロボット怪獣、 メカギラスだ。 「ギャアアァアアアアァ!」 西地区からは、ビルガモと同じように仮設住宅を破壊して、怪鳥型ロボットが発進した。 顔のパーツが一切なく、首は三連ビーム砲となっている。暗黒星人バビラーの主力兵器、 メガザウラである。 「ゴオオオオオオオオ!」 南地区からは青いテトラポッド型の円盤が現れたかと思いきや、すぐに無数の破片に分裂し、 それらが再構築して人型巨大ロボットとなった。ベリル星人の侵略用の戦闘メカ、ヘルズキング。 以上の三体のロボット怪獣が、トリスタニアの街中に出現した。 『これだけのロボットを仕込んでやがったのか……!』 さすがのゼロも一瞬戦慄したが、ビルガモは既に倒したので、相手の頭数は四。ウルティメイトフォースゼロ 全員を招集すれば、決して手に負えない状況ではない。 『それに、結局はお前を倒せばそれでいいはずだぜ!』 司令官はイカルス星人。ゼロは狙いをイカルス星人から外さずに攻撃を仕掛けようとするが、 イカルス星人はまたも不気味に笑う。 『イカカカカカ! そう焦るな。我輩、お前と直接戦うなんて、ひと言も言ってないじゃなイカ』 『何だと? まさか、まだロボ怪獣を残してるのか!?』 どうやら、敵戦力はこれでも終わりではないようだ。しかも、イカルス星人は次のことを言い放つ。 『それも、これから出すのが本命なのだ! 出でよぉ~!』 イカルス星人の呼び声によって、大空の彼方から、ヘルズキングのように人型のロボットが ゼロの前へと降りてくる。そのロボについて、イカルス星人が説明する。 『ウルトラマンゼロぉ! あのロボットは、お前を倒すのに実にふさわしい相手じゃなイカ! 何しろアレは、正真正銘、地球人の造ったロボットなのだからな!』 『何ぃ!? 地球製の……ロボット!?』 ゼロは驚いて、新たに出現したロボットを見上げる。 人型の機体は、モザイクのような模様に覆われている。左腕にはガトリングガン、右腕には ビーム砲とシザーアームが備えつけられている。胸部の中心には蓋があり、何をその下に 隠しているのかは不明だが、物々しい雰囲気を放っている。顔面は液晶パネルのようになっていて、 ピピピピと電子音を鳴らしながら放射状に並ぶ赤い線を光らせている。 ゼロはこのようなロボットの存在を、ダイナから聞いていた。彼が忘れることの出来ない敵の一つ。 侵略者の計略により、よりによって彼の故郷のネオフロンティアスペースの地球人類が生み出してしまった 強力無比の無人ロボット兵器。今上空から降りてくるロボットは、その兵器に特徴が一致していた。 『まさか、あれが……!』 ゼロに代わって、イカルス星人がその名を唱えた。 『電脳魔人、デスフェイサー! お前はウルトラ戦士が愛した地球人の造った兵器の手で、 あの世に行くのだぁ~!』 ネオフロンティアスペースの負の遺産、デスフェイサーが今、ゼロへの最大最強の刺客として トリステインの地に蘇った。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9293.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第八十六話「怪獣は動く」 不動怪獣ホオリンガ 登場 トリステインの一地方の、小さな農村。背景に野山が並ぶ、のどかな空気が流れる平和な土地である。 ここの畑の一つを耕している農夫に、通り掛かった農夫仲間が呼びかける。 「おーい、今日はいい天気だっぺなぁ~」 「ああ、そうだっぺなぁ。ほんに畑仕事日和だっぺ」 鍬を振るう手を一旦止めた農夫が、仲間と立ち話をする。 「それにしても、戦争が終わってからほんに平和になったっぺなぁ。重くなる一方だった税金も 軽くなって、はぁ~、まさに女王陛下さまさまだっぺぇ」 「ほんとになぁ。ウチの兵隊に出ていった息子も無事帰ってきたし、ひと安心だっぺよ」 「……けど、ここのところは刺激的なこともすっかりなくなって、何だか退屈だっぺよ。 来る日も来る日も変わり映えのない畑仕事ばっかり。ここらで何か面白いことでも起こらんもんだっぺかな」 「おいおい、そんな贅沢なことを言うもんじゃねぇっぺ。何をおいても、平和が一番! 今度の戦争で それがよく分かったろうよ?」 「まぁ、そうだどんけどな」 アハハハと朗らかに笑い合う農夫たち。こんな風に他愛ない話で楽しめるのも、平和である証だ。 しかし、ふと背景の山々に目を向けた農夫が、訝しげに目を細めた。 「んん~……?」 「おい、どうしたっぺ?」 「なぁ……何か、山が多くないっぺか?」 「はぁ?」 おかしなことを言う農夫に、仲間はすっとんきょうな声を上げた。 「何を言うっぺか? 山が多いって……そんなことあるはずなかろうて」 「いやいや、あそこ! いつも見てる景色と、今日はなーんか違う気がするっぺよ!」 農夫が指差す方向に、仲間も顔を向けた。 「そうかぁ? 気のせいだろうよ。落ち着いて考えろよ。山が増えるなんて、いくら何でも ある訳ねぇっぺ」 「けんど……」 もう一度山地に視線を送った農夫が、ギョッと目玉を剥いた。 「お、おい!」 「あん?」 「今、山が一つ動いたっぺ!」 その言葉に、農夫仲間はとうとうおかしくなったのかと心配になった。 「おめぇ、頭大丈夫っぺか? 山は生き物じゃねぇど。動くかよ」 「け、けど、あれ!」 農夫がしきりに指を差すので、仲間はやれやれと肩をすくめ、指の先へと視線を戻した。 そして彼も、表情を驚愕に染めることになった。 「な、な、な……なぁぁぁぁ――――――――――――!?」 「や、山が動いとるだよぉぉぉぉぉぉ――――――――――――!!」 二人が目撃したのは……野山と野山の間から、「山のような何か」がズズズズ……とゆっくり 移動している現場であった。 毎度お馴染みのトリステイン魔法学院、寮塔のルイズにあてがわれた部屋。 「なぁルイズ……クリスのことなんだけどさ」 「何よ、いきなり改まって」 才人が神妙な面持ちで、ルイズに話を振っていた。 ちなみに二人が座っている場所は、畳の上。そして囲んでいるのはちゃぶ台。何故西洋風文化の 世界のハルケギニアに、こんな不釣り合いのものがあるかと言うと、先日復学したタバサが 持ち込んできたところを発見した才人が、日本にいた頃を懐かしんで譲ってくれるように 頼み込んだからだ。タバサの方も、畳とちゃぶ台をどうしようか少し悩んでいたというので、 快く受け取ることが出来た。そしてルイズの部屋に運び込み、以前寝床にしていた藁を敷いていた 部屋の隅に設置し、才人のスペースにしたのであった。 しかしタバサがどういう経緯でこんなものを手に入れたのかはよく分からなかった。 里帰りしていた時に、色々あったみたいだが。 それはともかく、才人はまだ椅子を使わずに直接座ることに慣れていない様子のルイズに言った。 「今日もクリス、独りぼっちだったな。話しかける奴は、俺らだけだった」 「……そうね」 コクリと、ルイズは小さく首肯した。 クリスが学院に編入してから数日が経過していたが、クリスは現在のところ、ルイズと才人以外に 全然友達が出来ていなかった。それどころか、誰も近寄ろうとしない。やはり、クリスの格好や言動、 振る舞いが他と違いすぎるから敬遠されてしまっているようだ。 この状況を、才人は苦々しく思っているのであった。 「クリスのこと、どうにかならないかな。あいつ、時々突拍子もないこと言ったりやったりもするけど、 根は真面目でいい奴なんだぜ。それなのに、腫れ物みたいに扱われるなんてひでぇよ」 この才人の意見に対し、ルイズも渋い顔をしながらも返答する。 「気持ちは分からなくもないけど……貴族って、多分あんたが思ってる以上に閉鎖的なものなのよ。 自分たちにとっての変わり種は、そうそう受け入れようとは思わない……。わたしだって色々と苦労したものよ」 経験談を語るルイズ。確かに、会ったばかりの頃のルイズは周りから「ゼロ」と軽んじられ 半ば仲間外れにされていて、大変そうだったと才人は思い返した。現在はほぼ対等の立場と なっているが、それは『虚無』に目覚めたことでコモン・マジックを扱えるようになってから…… 貴族にとっての「普通」になってからようやくのことだった。 「他にも、貴族社会のしがらみのこともあるわ。その点においては、クリスが他国の王女だと いうのが一番のネックになってるのよ」 「他国の王女だってのが問題って……他の国の留学生ならタバサとかキュルケとかがもういるし、 何よりクリス、自分のことは王女と思わなくていいって言ってたじゃんかよ」 「クリス自身がそう言ってても、周りが同調するとは限らないわよ。むしろ、クリスに賛同する 者の方が圧倒的に少ないでしょうね。本人がどう言おうとも、周囲はどうしても彼女を「王女」、 つまり「一つの国そのもの」として見るわ。それに親しくしようとするのは、他国に取り入ろうと してると見られてしまうって訳。そんなマイナスイメージがついたら、貴族社会で苦しい思いを することになるでしょうね。……「他国の貴族」と「他国の王女」じゃ、その点が大きな違いなのよ。 そしてその意識を変えるのは、所詮一生徒と成り上がり貴族には無理難題よ」 憮然とした才人に、ルイズは諭した。 「何だよ、それ。くっそ、貴族ってのはいちいちめんどくさいな……」 大きなため息を吐いた才人は、論点を変えながら話を続ける。 「でも、俺たち姫さまから、クリスのことをよろしく頼まれただろ。それを反故にするのか?」 アンリエッタのことを出されると、ルイズはうッ、と息を詰まらせた。 「そんなつもりじゃないけど……だからって、具体的にどうしようってのよ。たとえば、 あんたの世界だと転校生はどんな風に扱われるの?」 聞かれて、才人は答える。 「俺の世界じゃ、そもそも身分の違いなんてもんはないし……転校生が来たら、仲良くしようって 歓迎するもんだよ。クラスのみんなで、パーティーとかもするんだぜ」 そう言ったら、ルイズが食いついた。 「パーティー? ……なるほどね。それ、なかなか悪くないじゃない」 「え?」 「貴族の世界も、親交を深める手段として最も用いられるのはパーティーを開催することだわ。 一対一だと変な勘繰りをされるかもしれないけど、不特定多数と平等に接すれば、他意があると 思われる可能性は少なくなるでしょうね」 ルイズの言うことは才人には少し難しかったが、同意してくれているということだけで十分であった。 「そっか! ルイズがそう言うんだったら、その方向で行こう! クリスを中心に、学院でパーティーだ!」 張り切る才人だが、ルイズはそのことで違う問題を挙げた。 「でも、パーティーをやるとして、今度はその内容をどうするかを考えないといけないわよ。 何せ、普通のパーティーじゃクリスがまたいらないことを言って、せっかくの席をぶち壊しちゃう かもしれないし。それに、パーティーするなら少なくとも広間が必要よ。そこを貸してもらう 許可が下りるかしら」 「うッ……まだそんなに問題があるのかよ」 嫌になってくる才人だが、ここで閉口していては先に進まない。 「それじゃまずは、どんなパーティーにするかの案を……」 と言いかけた時に、ゼロがいきなり声を発した。 『話の途中ですまねぇが、一旦そこまでにしてくれ。才人、怪獣がこっちに近づいてるぜ!』 「えッ!? マジかよ!」 途端に才人とルイズは身を強張らせた。 『嘘言うもんかよ。気配が異様に静まってるからなかなか気づけなかったが、一度捕捉すりゃ はっきりと分かる。もう結構近いとこまで来てるようだ』 「そうか……分かった。どんな奴か知らないが、放っとく訳にはいかないよな」 気配が異様に静まっている、というのが奇異であったが、そこを考えるのは後からでもいい。 才人はさっと立ち上がる。 「怪獣の接近を止めないとな。ってことでルイズ、行ってくるぜ」 「頑張ってね、サイト」 壁に立てかけていたデルフリンガーを背負った才人を、ルイズはひと言だけ告げて応援した。 「デュワッ!」 ウルトラゼロアイを装着すると、ゼロへ変身した才人が光に包まれながら学院から飛び出していった。 才人が変身する少し前、タバサはシルフィードに跨って学院から飛び出し、学院に接近しつつある 怪獣の姿をひと足先に確認していた。直前に空の散歩をしていたシルフィードが、たまたま発見して 彼女に報告していたのだ。 「お姉さま、あれなのよ! ホントに、小山が動いてるみたいでしょ? きゅいきゅい!」 シルフィードが指す先にいるのは、動く小山……と思わせるような、重量級の怪獣であった。 二つの真ん丸とした目玉に、青い胴体からはいくつもの触手を伸ばしている。そして口に相当する 部分には、黄色い花をちょこんと生やしている。それがズズズズ……とゆっくりと学院の方向へと 移動している。 花があることから想像がついたかもしれないが、この怪獣は動物型ではなく植物型。名をホオリンガという。 そしてタバサは、以前に書籍でこのホオリンガの姿形を目にしていた。 「あの怪獣は……トリステインの一地方の伝承を纏めた本の挿絵にあった怪物と瓜二つ」 「お姉さま、あの怪獣のことを知ってるのね?」 シルフィードの問い返しにコクリとうなずくタバサ。 「……確か、現れた場所から一歩も動かずに、土地に栄養を与えた後に山に変貌するという。 その地方では、自然の神として信仰されてたこともあるとか」 「山に変わる? どういうことなのね?」 「そのままの意味らしい」 「……よく分からないけど、そんなシルフィにも分かることが一つあるのね」 シルフィードは地上のホオリンガへと視線を落とした。 「一歩も動かないって、あの怪獣は明らかに動いてるのね。おかしくないかしら?」 「……わたしにも、そこはよく分からない」 そう話していたら、ゼロが現場に到着した。実体化した彼はホオリンガの前に着地して、進行を妨害する。 『待ちな! これ以上は学院には近づかせねぇぜ! そこで止まれ!』 手の平を向けて高々と告げるが、 「キュウウゥゥゥイ!」 ホオリンガはまるで聞き入れた様子がなく、速度を保ったまま前進し続けている。それを見た ゼロが舌打ちした。 『聞いちゃいねぇか。……って言うか……』 ゼロはホオリンガの眼に注目した。おぼろげにしか光が灯っていない。 『どうも正気じゃなさそうだな。……この前のティグリスもそんな感じだったな……立て続けに そんなのが現れるとは、やっぱり何か恣意的なもんがあるのか……?』 一瞬考え込んだゼロだが、すぐに意識をホオリンガに戻す。 『とりあえず考えるのは、こいつを正気に戻して元の居場所に帰してからだ!』 向かってくるホオリンガに飛びかかっていくゼロだが、ホオリンガはティグリスの時とは異なり、 自発的にゼロに攻撃を仕掛ける。 「キュウウゥゥゥイ!」 胴体から生える長い触手がいくつもうごめき、ゼロへと伸びていった! 『おっと!』 しかしさすがはゼロ、複数の触手を難なく回避。だがホオリンガも諦めず、しつこく触手を振り回す。 『よッ! はッ! とッ!』 正面からの突きを、首を傾けてよけ、袈裟に振るわれたものはくぐり、足元を狙った横薙ぎは 軽く跳び越える。巧みな身のこなしだ。 『へへッ、今度はこっちの番だぜ!』 そろそろ反撃しようとするゼロ。だがその瞬間に、ホオリンガの花から大量の黄色い花粉が噴き出した! 『うわっぷッ!?』 ゼロは突然の花粉をもろに浴びてしまった。それにより、 『は、はぁっくしッ! べっくしッ! く、くそぉ……!』 花粉が呼吸器を刺激し、くしゃみが止まらなくなる。いくら身体を鍛えようとも、こういうものは どうしようもない。 くしゃみのせいでろくに身動きが取れなくなっていると、地面から触手が突き出てきて、 ゼロの四肢を拘束して空中に持ち上げた! 「キュウウゥゥゥイ!」 『うおわッ!? くぅッ……!』 ホオリンガは捕らえたゼロをそのままギリギリと締め上げる。苦痛にうめくゼロだが、 もちろんやられたままではいない。 『しょうがねぇ……ビリッと行くが、勘弁してくれよ!』 意識を集中し、ツインテールに浴びせたような電気ショックを身体から発した。電撃は触手を通じ、 ホオリンガ本体を痺れさせた。 「キュウウゥゥゥイ!」 『よし、今だ!』 ホオリンガが停止している隙に、ルナミラクルゼロへ変身。素早く浄化技を放つ。 『フルムーンウェーブ!』 光の粒子を浴びて、ホオリンガの触手がダラリと垂れる。そして二つの目玉に青い輝きが灯った。 「キュウウゥゥゥイ……」 ホオリンガは辺りを見回すと、クルリと反転して来た道をそのまま引き返していった。 ホオリンガはもう大丈夫。このまま元々の場所へ帰り、自らの栄養を土壌に与えて野山の一つになり、 自然と一体化するその時を待つ、本来の生態を取ることだろう。 その日の夜、才人は学院の中庭を散策しながら頭をひねっていた。 「う~ん……クリスのためのパーティー、どんな内容にしたらいいかなぁ……」 ホオリンガ出現で中断していたパーティーの考案を続けているのだが、どうにもいい案が 一向に浮かんでこないのだった。それで気分転換を兼ねて散歩しているのだが、やっぱり 良い考えは出ない。 「先生たちから場所を借りれるかって問題もあるけど、まずはそこを決めないと、どうしようもないよな。 けど、普通じゃないパーティーってどんなんだ? そもそも俺、普通のパーティーってのがどんなもんかも よく知らないし……」 と思い悩んでいたら、背後から声(?)を掛けられる。 「キュー」 「ん?」 振り返ってみると、そこにいたのはクリスの使い魔、デバンだった。 「デバン。お前、こんなところで一人で何やってるんだ? クリスの傍にいなくていいのかよ」 思わず尋ねかけた才人だが、すぐに苦笑する。 「って聞いても、人の言葉なんて話せないか……」 「そういう君も一人じゃないの。お互いさまだね」 そう思った矢先に、返事が来た。しかもかなり渋みのある声。 「……えええええええええ!? デバン、今しゃべったのお前か!?」 「うん、私がしゃべったよ」 「お、お前、しゃべれる怪獣だったのかよ!」 「いや、元々は人の言葉は話せなかったよ。これはお嬢と契約した影響だね」 お嬢というのは、言うまでもなくクリスのことだろう。 「けど、しゃべれるんだったら何でいつもは『キュー』なんて鳴いてるんだよ」 「それはあれだよ。私はお嬢のマスコットだからね。それが渋い声でしゃべっちゃダメでしょ。 女の子の夢が壊れちゃう」 「マスコットって、そんな濃い顔でよく言うな……」 若干呆れた才人であった。 「まぁそれはいいや。で、お前は俺に何の用だ?」 「ああ、そうだったね」 デバンは気を取り直して、才人に聞き返す。 「今、お嬢のためのパーティーがどうとかって話してたけど、どういうこと?」 「聞いてたのか。実はな……」 才人は、クリスが学院で孤立しているのを気に掛けていること、それをどうにかする手段として パーティーを立案中であることを説明した。すると、デバンはジーンと感動する。 「ウチのお嬢のことをそんなに考えてくれるなんて……君ってすごくいい子だねぇ。さすが、 お嬢が見込んだサムライだよ! うん、実に素晴らしい!」 「いやぁ、それほどのことじゃないさ」 称賛されて少し照れた才人だが、デバンは声のトーンを変えてこんなことを語り出した。 「でも、実はお嬢、この国には勉強をするためだけに来たんじゃないんだよね。お嬢のことを 心配してくれてる君には話すけど」 「へ? クリス、留学生じゃないのか……?」 「表向きはそうなってるけどね、本命は別にあるのさ。お嬢は、ある使命を帯びてこの国に来たんだよね」 突然の重々しい話に、才人は目を見開いて驚く。 「使命って……」 「その使命を終えたら、すぐに国に戻ることになってるの」 「すぐに? そんなに早く帰らなくちゃいけないのかよ?」 「何せ王女だからねぇ。本当なら、そうそう国を空けてちゃいけないんだよ」 デバンの説明に、才人はクリスもアンリエッタ同様、色んな制約の下に生きているのだと いうことを薄々感じた。 「それで国に帰ったら、ルイズと彼女の使い魔の君ならともかく、ここの学院の人々とは もう二度と会うことはないだろうね」 「そんな……」 「そういうこともあって、お嬢自身周りと馴れ合う気がないんだよ。それに自分の立場ってのも よーく分かってる。だから孤立してるんだよ」 デバンの言うことを、才人は受け入れがたかった。 「ホントにそれでいいのかよ……。クリスだって、一人ぼっちで寂しいんじゃないのか?」 「本心じゃそうかもしれないけど、すぐにお別れになるだろうからね。後が辛くなるのを考えると、 必要以上に仲良くなりたくないと考えちゃうのさ」 「けど……」 「サイトくん、君はお嬢を本当に心配してくれてる。それは私としても嬉しいよ。けど、お嬢の事情も 分かってあげてほしい」 そう言われては、才人に反論の言葉は見つからなかった。代わりに、デバンにこう尋ね返す。 「でも、そのクリスの使命って何なんだよ。この学院に、どんな用があるんだ?」 しかし、デバンからははっきりとした答えは得られなかった。 「そこまでは私からは話せないねぇ。何せ私はあくまで使い魔だ。そこまで重要なことを、 独断で教える訳にはいかない」 「そうか……」 「まぁ、お嬢はサイトくんを友達だと思ってる。君の力が必要だと思ったら、お嬢自らが話すさ」 それでデバンからの話は終わりであった。 「話、聞いてくれてありがとね。もちろん、このことはお嬢には秘密にしておいてね」 「言われなくても分かってるって」 「ありがと。じゃ、私はお嬢のとこ戻るから。キュー!」 最後にひと鳴きして、デバンはひょこひょこと中庭から離れていった。 「……すっげーギャップ、あの声……」 デバンの背中を見送った才人は、ふと考える。クリスの事情ももちろんのことだが、 一番気にかかったのはクリスの使命とやらだ。王女自らが果たさなければならないほどの 使命とは、一体どんな内容なのか。 あの気持ちの良いクリスのことだ、まさかトリステイン侵略などを考えているのではあるまい。 しかしそうでないのなら、わざわざ他国の学院に何をしに来たというのだろうか? その答えは、どんなに考えを巡らそうとも出てくることはなかった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7482.html
前ページゼロの使い魔はメイド いよいよ品評会当日。 ルイズはガチガチに緊張しながら、自分の出番を待っていた。 何度も、 「落ち着いて? 大丈夫、いけるわ!」 ブツブツつぶやいている。 緊張しているのは、まわりの生徒も同じである。 手の平に使い魔を乗せてしきりに何かつぶやいている女子生徒。 目玉お化けを抱えて、ひたすら素数を数えている男子生徒。 お互いが緊張のせいか、妙に遠慮がちになっているような感覚だった。 それでも中には、例外もいるが。 貴重な例外の属する微熱のキュルケは、観客席のほうをうかがいながら、獲物を待ち構える野生の猫のような目つきをしていた。 それとは対照的に、横に陣取るイザベラは野菜やハムをはさんだパンをかじりながら、ワインをラッパのみしていた。 気持ちいいほどに態度が悪い。 どう見たって、貴族の令嬢の取る態度ではない。 初めから、まともにやる気がないようだった。 むしろこのイヴェントそのものを、小馬鹿にしているようにさえ思える。 こんな態度では他の生徒から苦情がきそうなものだが、みんな彼女を恐れてか、それともそんな余裕がないのか、黙ったままだ。 「なかなかのものじゃない?」 客席を観察しつつ、キュルケはその唇に紅を塗る。 ゾッとするほど色っぽいのに、一本芯が入ったかのような気品が漂っていた。 それは彼女がどう生まれ育ってきたかを物語っているかのようだ。 イザベラのほうは、 「どうでもいいさ」 心のそこからそう言っているのがよくわかる態度で応える。 横柄が服を着ているような態度だ。 「メイジにとって神聖な半身であるはずの使い魔を見世物にするってか? ガリアでも似たようなことがあったけど、くだらないわねえ」 その言葉に、他の生徒はさすがに気分を害したようだった。 折角の晴れ舞台であるというのに、どうしてこいつは水を差すようなことを言うのか。 ちくちくとした視線がイザベラに飛ぶ。 「あン?」 それに気づいたのか、イザベラは周囲を見回した。 No、No……。 そんな上品なものではない。 ガンを飛ばすというのがもっとも最適な行為だった。 その恐ろしい視線を受けて、睨んでいた生徒はたちまち視線をそらしたり、うつむいたりする。 まともに睨み合おうとする者は皆無だった。 「相変わらず、柄が悪いわね……」 そんな青い髪の同級生を見ながら、ルイズは呆れ顔だ。 後ろには普段と違ってオシャレをしたシャーリーが控えている。 着ているのは、モットという貴族から送られてきた服だ。 どうしてこんなものをもらったのか、二人にはよくわからないのだが。 あるいは、わからないほうが良いのかもしれない。 少なくとも、まだ今は―― 「ねえ、ルイズ? あなた品評会で何するか決めたの?」 キュルケはルイズへと話しかけた。 「ふん。もちろんよ、ま、見てるがいいわ」 と、ルイズは胸をそらす。 「ふーん……? そう」 キュルケの視線は、ルイズからシャーリーへと移る。 「……」 シャーリーはあわてたように顔を伏せる。 「そんなに照れることないじゃない、可愛いわね」 キュルケは小さなメイドの反応に、楽しそうに微笑んだ。 「暇人が」 イザベラが悪友の態度をそう評した。 やがて、品評会は始まり、最初の者がミスタ・コルベールに呼ばれた。 あるものはバイオリンを弾きながら、使い魔を飛び跳ねさせる。 あるものは使い魔と一緒に手品のようなことを。 あるものは使い魔と一緒に決めポーズ……をしているだけ。 (何だか、サーカスみたいなだなあ……) シャーリーは緊張も忘れて、メイジと使い魔の見せるアピールに魅せられていた。 前にいた場所では、イギリスではどんな偉い人でも見られないような魔法の国の光景を。 「ふ、ふん……。さすがにみんな気合が入っているわね――!」 ルイズも刺激を受けているのか、ぎゅっと手に力が入る。 「次は、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー嬢」 コルベールが、キュルケの名を呼んだ。 「さて、魅せますか」 キュルケは不敵に笑い、つーっと立ち上がる。 興奮しているのか、微かに頬が上気しているのがわかる。 「じゃ、お先にね」 キュルケはサラマンダーのフレイムを伴い、イザベラにウィンクを飛ばす。 「ま、テキトーにがんばってきなさいよ」 イザベラはひらひらと手を振りながら、ワインボトルから手を離さない。 「そういえば、あんたのモードは? 姿が見えないけど」 「――そのうち、戻ってくるさ。そのうちな」 眼を閉じてから、イザベラは言った。 そして、またワインを飲み始める。 「でも、あいつの芸は見ないほうがいいと思うよ? 特に」 イザベラはシャーリーを見る。 「お前はな」 びくりと震えるシャーリー。 「……あんた、あのワイバーンに何させる気? まさか、客席を襲わせる気じゃないでしょうね?」 ルイズは警戒心を丸出しで問いかけた。 「さあねえ?」 イザベラはケケケ、と笑うばかりで、明確なことは何も言わない。 「おお、怖い、怖い」 キュルケはおどけた仕草をしてみせてから、舞台へと上がっていった。 そこでフレイムが見せたものは、吐き出す炎をまるで生き物のようにくるくると変化させるというものだった。 ある時は螺旋状に、ある時は雲のように、ある時は蛇にように、と。 「……すごい」 シャーリーは素直に感心していた。 かつて生きてい世界では、こんなものは想像したことすらない。 幻獣たちとは、こんなすごい生き物だったのか。 改めて、彼らの特異性と能力に驚嘆する。 さて、彼女の『ご主人様』であるルイズはというと―― 「いよいよ、次ね。いよいよ……」 ブツブツとつぶやきながら、キュルケのことなどほとんど目に入っていないようだった。 キュルケが出番を終えて、優雅な一礼を残して舞台を降りた時、今まで以上に大きな拍手が起こっていた。 それはキュルケ本人の魅力と、決して無関係ではないだろう。 「次はあなたたちよ、何をするかは知らないけど、がんばりなさいな」 戻ってきたキュルケは、そっとシャーリーの肩を叩いた。 「は、はい」 シャーリーは緊張をたたえた顔でうなずいた。 そして、 「続きましては、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢」 「キターー!!」 コルベールの声に、ルイズはぴょんと背筋を伸ばした。 「いいわね、いくわよ!」 ルイズはぎゅっと、シャーリーの手を握る。 顔を近づけ、そのブラウンの瞳を覗きこんだ。 「はいッ」 シャーリーも真剣な表情で応える。 見つめ合う二人の乙女。 互いに、今にも息がかかりそうな距離だった。 微笑ましく、美しい光景ではある。 が、万人にとって正義が存在しないように、万人にとっての美というものも存在しないらしい。 「あいつらひょっとして怪しい仲か?」 イザベラはかすかに眉を吊り上げた。 あまり、同性愛というものを好ましくは思わないのかもしれない。 「まあ、別にいいんじゃないの? 可愛いじゃない」 「可愛いかねえ」 イザベラは理解しかねるという顔で、首を振った。 ワインを飲もうとするが、瓶はすでに空になっている。 「ちぇ。ま、頃合かな」 イザベラは空の瓶を弄びながら、 「おいグランドプレ、これ捨ててきな。それから厨房いって水貰って来い、三分以内な」 使い魔のフクロウとスキンシップをしている小太りの少年に命令した。 上官が部下に命令を下すごとく、至極当然という態度だった。 「な、何で僕がそんなこと!」 マリコルヌ・ド・グランドプレは当然のように反発する。 が。 「とっとと行けと言ってるんだよ、『微笑みデブ』!!」 「Sir, Yes Sir!!」 イザベラの一喝でマリコルヌは直立不動となり、訓練された兵隊のような動きで走っていった。 機敏なデブ。 その様子を見た人はこんな風に思うのではないだろうか。 「……よく調教されてるわね」 キュルケは関心と呆れの混じった声でつぶやいた。 「大したこっちゃないね」 イザベラは笑いもせずに手を振るだけだった。 そんなおかしな情景が展開されている間―― ルイズはシャーリーと連れ立って舞台へと上がっていく。 「皆様に、わたくし、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの召喚した使い魔を紹介いたします」 ルイズは、先ほどの緊張を感じさせない、堂々とした態度で客席を見る。 このあたりは、さすが公爵家令嬢という育ちと器を感じさせる。 客席にはモット伯爵とその秘書の姿もあったのだが、ルイズは彼らを良く知るわけではないし、当然気づかない。 「シャーリー。彼女が、私の使い魔です」 ルイズは初めて社交界に参加する令嬢をエスコートするように、そっとシャーリーの手を取りながら、紹介をした。 どよめきと、それに笑い声が混じった。 人間を召喚する、そんな話は何かのジョークとしか思われないのだろう。 しかし、中には本気で拍手を送っている者もいた。 ジュール・ド・モット。 怒涛のモットの異名を持つ貴族である。 「今回は、ご挨拶に代えまして、私と彼女のダンスを皆様にご披露いたします」 ルイズが宣言すると、裏に控えていた楽手たちの操る楽器によって、艶やかなメロディが生み出されていく。 それに合わせて、二人の少女が動き出した。 くるくると円を描き、時に近づき、時に離れる。 まるで、空を飛びながらで戯れあう小鳥のようだ。 優しげな、春風を思わせる曲の中を、二人の少女は踊り続ける。 ルイズほどのわかりやすさや目立つ部分は少ないにしても、シャーリーも見目麗しき少女である。 二人のダンスは、サラマンダーの炎、宙を駆ける鳥以上に優美であると言えた。 時が過ぎるに連れて、次第に観客もそれに飲まれていった。 ルイズが、これを思いついたのは、三日ほど前のことである。 ヒントといおうか、きっかけはルイズ自身の何気ない独り言からであった。 品評会は、簡単な挨拶だけすませておこうか、そんな考えに落ち着いていた時だった。 「品評会の次は、『フリッグの舞踏会』かあ……」 これも学院の行事であるが、ゼロのルイズと揶揄される少女にとっては、あまり心躍るものではなかった。 舞踏会や社交界の経験は多少あるが、いずれにしても気持ちのいいものではなかった。 優雅な見た目の裏で行われる駆け引きや陰湿な争い、そういうものを理解しにくい年齢の少女とはいえ、いや、だからなおさら、そこにある悪しきものを感じ取ってしまう。 いくら美辞麗句を並べられようと、その奥にある『ゼロ』への蔑みを、無視することなどできなかった。 といっても、ヴァリエールの娘として舞踏会に出ないわけには行かない、というか、これは一応とはいえ正式な学校の行事なのである。 出席しないと成績にも響く。 「あーあ。……どうせ踊る相手もいないのにね」 そうつぶやいていると、シャーリーがお茶を持って部屋にやってきた。 これ自体はもはや日常となったことだが。 「ねえ、あなた、ダンスは出来る?」 ティーカップを置いたシャーリーに、ルイズは何気なく尋ねた。 一瞬シャーリーは脅かされた子猫のような顔をしたが、 ちょっとばかり時間を置いて、 「……いいえ」 申し訳なさそうに言った。 「あっ……。べ、別に気にしなくっていいのよ。けど、シャーリーってば、裁縫でも掃除でも、何でもできるから、そういうのも得意なのかなって」 ルイズは誤魔化すようにお茶を飲みながら、あはあはと笑う。 しかし、カップが空になる頃、自分で話したことが、ある種の閃きとなった。 「ねえ、教えてあげようか?」 ルイズはシャーリーを見上げて、にっこりと笑った。 「え?」 その意図が理解できなかったのか、最初シャーリーは怪訝な顔をしただけだった。 それと同時に、ルイズは立ち上がり、使い魔である少女の手を取った。 「踊れて、都合の悪いってことはないと思うわよ?」 この日から、二人の……というか、シャーリーへのルイズのダンス指導が始まってしまったわけだ。 自分より年下なのに、メイドの仕事も完璧で、物覚えも速いのに、控えめで慎ましいシャーリー。 果たして、自分はそんな彼女の主人にふさわしいメイジというか、貴族であろうか? 実は、そんな疑問がないわけではなかった。 ハルケギニアの文字を教えてはいるが、これは彼女が遠方からの来訪者であるから仕方がない。 乗馬を教えてもいるが、上達が早いというよりどの馬もシャーリーに対しては名馬になってしまうので、あんまり指導の意味がなかった。 ろくに調教もしていないはずの若馬も、簡単に乗りこなせてしまう。 動物に好かれやすいってレベルじゃねーぞ、という感じだ。 シャーリー本人にあまり自覚がないのが、余計に変だったが。 が、しかし。 ここでルイズは発見する。 そんなシャーリーに、自分が手に手を取って教えられるものがあった。 物覚えのいいシャーリーだけに、ダンスの飲み込みも早かったが、貴族教育の一環として、幼少時からみっちりと仕込まれたルイズからすればまだまだ。 わずか三日ですごく上達はしたものの、それもルイズのサポートあってのことだ。 ちょっと優越感を覚えてしまったルイズだが、シャーリーもダンスをすごく喜んでくれているので、両者共にOK,OKだった。 曲が終わり、ルイズとシャーリーが頭を下げた時、拍手が上がった。 真っ先に手を叩いたのは、やはりモット伯であったりする。 「ええもん見せてもらうた!」 とばかりに、号泣せんばかりである。 そのせいで周りの人間にすっかり『なに、このオッサン……』と引かれているが、気づいていない。 気づかないほうがいいのかもしれないが。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールとシャーリー・メディスン。 二人の少女はお互いに微笑みあい、一礼をしてから舞台を降りた。 それを真っ先に迎えたのは、キュルケだ。 パチパチと惜しみない拍手をしながら。 「可愛かったわよ、お二人とも」 賞賛の声に、シャーリーは頬を染めてうつむく。 「もお、いちいちそういう可愛い仕草しないの」 キュルケはちょんとシャーリーの頬を指でつつく。 「ちょっと、やめなさいよ!」 それを遮ろうとするルイズだが、 「いいじゃないの、ちょっとくらい! いつもこの子を独占してるんだから」 キュルケは構うことなく、シャーリーの頭を抱えた。 勢いで、そのボリューム満点のバストへ、少女の顔が埋め込まれる。 シャーリーの顔が真っ赤に染まった。 「何が独占よ、やめなさいって言ってるの!」 ルイズはシャーリーとは違う理由で顔を真っ赤にして、キュルケにつかみかからんばかりだ。 コルベールの声が聞こえてきたのは、ルイズがシャーリーをキュルケから引き離した時である。 「最後は、イザベラ・ド・モリエール嬢……」 「それじゃ、いくとするかね」 マリコルヌに持ってこさせた水を飲んでから、イザベラが立ち上がる。 決して弱くないワインを一本空にしたのに、素面とまるで変わった様子がない。 「がんばってね、木枯らし」 「がんばるのは私じゃなくってモードよ、微熱」 微笑む悪友に、イザベラはふふんと笑い返した。 だが二人の笑みも、いきなり鳴り響いた轟音にかき消された。 シャーリーはいきなり周囲が薄暗くなり、そうこうするうちにとんでもない音が聞こえてきたので、びっくりして尻餅をついてしまった。 「ゴーレム!?」 ルイズが上を見て狼狽していた。 人間に似た形をした土の塊が、学院の塔を殴りつけている。 「な、なに、あれ…………?」 シャーリーはあまりの異常事態に、怖いというより呆れたような気持ちでゴーレムを見上げていた。 ゴーレムが殴りつけているのは、学院の本塔だ。 「何してるんだい、ありゃあ」 他の生徒が逃げ惑っている中、イザベラは驚きながらも、楽しそうな顔だ。 「あそこは確か宝物庫があったはず。多分あそこを破って、宝を盗み出そうっていうんでしょうね。白昼堂々大したものだわ」 横に並ぶキュルケは感心したような顔で言った。 しかし、ルイズのほうはそうは言っていられない。 「シャーリー、逃げるのよ!!」 ぱっとシャーリーの手を取って、駆け出していく。 「……ちょっと意外ね」 それを見送りながら、キュルケは目を瞬かせる。 「てっきりゴーレムに失敗魔法でもぶつけるかと思ったのに」 「んなことしてりゃ、巻き添えであの使い魔メイドまで潰されかねないわね」 イザベラはくすくすと笑い、 「状況的には正しい態度だわ。さて、私らもとっとと逃げますか」 「モードは?」 「あいつはでかすぎるし、かといってあんな馬鹿でかいゴーレムの相手なんざ無理だ。しかっし無駄にでかいな? 20~30メイルはあるんじゃないの?」 のん気なことを言いながら、青と赤の少女たちは全速力でその場から逃げ出していく。 いやはや、学院は上に下への大騒ぎだ。 巨大ゴーレムはそれを嘲笑うかのように塔を攻撃し、ついには壁に大穴を開けた。 その腕を伝い、ローブに身を包んだ黒い影が宝物庫へと踊りこんだと思うと、何かを抱えて飛び出してきた。 恐らくは、それが目的だったのだ。 ゴーレムは体を反転させると、のっしのっしと壁を一跨ぎして、どこかへ行ってしまった。 荒らされた宝物庫の中には、 『破壊の杖、確かに領収いたしました 土くれのフーケ』 と、ふざけた一文が刻まれていた。 「ところで……結局あなたはモードに何させる気だったの?」 ゴーレムが消え去り、まさに蜂の巣をつついたような騒ぎになっている学院内を見ながら、キュルケはイザベラに尋ねる。 「ああ、あいつの狩りの腕前をみていただこうと思ってね。オークを二、三匹取ってこさせてたのさ」 「……お流れになって正解だったわ。まさか生け捕りに?」 「さすがにそこまで器用なことはできないよ。ま、どっちにしろあいつの餌になるから、無駄にはならない」 「ハッキリ言って悪趣味」 「褒め言葉だよ、私にとっちゃね」 「それもそうね、ところで……」 「なにさ」 「あんた、ひょっとしてマリコルヌみたいなのが趣味なの?」 「あいつが豚なら食べちゃいたいほど大好きだったろうけど、生憎人間だからねー」 前ページゼロの使い魔はメイド
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1113.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 彼女はいきなりこのハルケギニアに飛ばされたとき、それほど驚いたわけではない。 気がついたら、見知らぬ場所にいた。 そんな経験を、彼女は2回経験している。 どちらも彼女にとって余り良い思い出ではないが。 まぁ、それでも彼女が少し驚いたのは確かだが――それより差し迫った問題があった。 お金がないのである。 いや、いわゆるクレジットなら城から持ち出した 槍を売り払ったのがあったのだが、それはここでは役に立たなかった。 が、それでも普通の人間ではあり得ないほどの期間、それを保たせたが、 流石に限界が来る。なので、持ち物を幾つか売ることにした。 そこで立ち寄ったのがあの武器屋だったわけだが―― その時、持っていたのは精々あの『幻魔』位であることに気付いた。 いや、『幻魔』一本で渡って来れたので、逆に気付かなかったのだ。 『幻魔』は3000の……エキューとか言う金貨と換えられた。 買ったときの支払ったのは3だから1当たり1000か。まぁ、妥当かも知れない。 それを元手に、傭兵まがいの事や、遺跡荒らしや、 本屋のバイトをして馬車に軽くひかれたりと色々ありながら、 ようやく愛剣を買い戻す算段が付いたのだ。 行ってみたら、売れていた。 武器屋から買った人を聞き出すと、貴族の子供二人組だったらしい。 貴族の子供が供も付けずに外に出ることはあまりないだろうから、 ならば、供がいない人間と言うことになるだろう。 まず考えたのは、供を付ける余裕のない貴族だったが、 その貴族は2000をぽんと出したらしい。ならば違う。 なら、供が何らかの理由でいない――そう言えば今日は虚無の曜日だったか。 大体のあたりをを付けると、彼女はそこに向かった。 そこに着いてまず彼女が見たのは、雷竜にくわえられている自分の剣であった。 二つの月が、 魔法学院の宝物庫がある壁と、それに横になって立つ人影を照らしていた。 「さすがは魔法学院の宝物庫ね…… 私のゴーレムでも、これを壊すのは無理ってものね……」 何故壁に立っているのかは理由も原理もわからないが、 その人影は呟いた。 「『固定化』以外はかかってないみたいだけど――」 そこまで言うが、人の気配が近づいてくるのを察知すると、彼女は壁を蹴り、 草と木が生い茂り、身を隠すには丁度良いところのそのまま隠れる。 見ると、どうやらこの魔法学院の生徒であるようだった。 その人影は、なにやらそこで少し話し込むと、 いきなりそのうち一人を押さえ込み、何かをやっている。 どうやらロープで縛っているらしい。 その次に、竜……誰かの使い魔だろうか? それがやってきて、その縛られた人物と、何かを他の人影から受け取り、 そのうち一人を背に乗せると、塔の上まで飛んでいった。 (……いじめ……にしては妙ね?) 塔の上の方を見ると、さっき縛られていた人物がぶら下げられている。 下の方を見ると、なにやら残った二人が話し込み、 そのうち一人が杖を構えると、短い言葉を唱えて、杖を振った。 すると、爆音が響く。 (なんだい、そりゃ……) その音がした、壁の方を見やると……自分では壊せそうになかったそこに、ヒビが入っていた。 それを確認すると、彼女は長い呪文の詠唱を始めた。 キュルケは、『ファイヤ・ボール』の詠唱を始めようとして、 後ろに出現した大きな物の気配に気付いた。 振り返る。するとそこには巨大な土のゴーレムが此方に歩いてくる姿があった。 「「な、なによこれ」」 彼女が横を見ると、ルイズが驚いた表情でそのゴーレムを見ていた。 恐らく自分も同じような表情をしていたのだろうと思うが、 取り敢えず、叫ぶ。 「逃げるわよ!」 その上空では、タバサがそれを冷静に見ていた。 「宝物庫に向かってる」 それに気付くと、タバサは自らの使い魔に指示を出し、杖を構えた。 「クーン」 「ふぁに?」 剣をくわえているので、発音がはっきりしないが、 彼女の使い魔――クーンはちゃんと応えたようだった。 「助けていかないと」 ゴーレムが向かっている宝物庫の壁の前にぶら下がっている、青年を指していった。 「どうしてこうなったんでしょうね……」 そこにぶら下がっていた青年は、独りごちた。 ゴーレムが此方に近づいてきていた。 どうも、ここは危なそうだ。 「『剣』」 具現化した剣が、彼を縛るロープをバラバラに切り裂く。 「『リバースグラビティ』」 落下を始めた自分の身体を、重力を反転させて減速させる。 そして、下へと華麗に着地する……が。 すぐ側にゴーレムが迫ってきていた。 踏みつぶされるその瞬間とも言う時に、 横から何かが飛んできて、彼をくわえてそのまま飛び去った。 その何かは、タバサとその使い魔であった。 彼は礼を言う。 「ありがとう」 返事はない。 突如、彼は一つのことに気付く。 自分がくわえられていたと言うことは、前にくわえられていたものは…… 「うぉぉぉぉぉ!?」 「ちょっ…えぇぇ!?」 下から絶叫が聞こえてきた。 竜がくわえていた剣は、どうやらゴーレムの足の下にあるらしい。 その足を上げないまま、ゴーレムが腕を振るう。 そのまま、拳をヒビの入った壁にたたき付けると、その壁は崩れ去った。 ゴーレムの方の上で、笑いを浮かべていた人物、 『土くれのフーケ』は、崩れ去った壁から宝物庫へと入った。 中を見回す。目的の物以外にも色々と素晴らしい宝物があったが、 今回の狙いは既に決まっている。 彼女はその鏡と、飾りっ気のない指輪を見つけた。 何の変哲のない鏡に見えるし、もう片方もただの指輪にしか見えない。 が、その前にかけられた札が、それがただの鏡と飾りでないことを示していた。 『火返しの鏡。持ち出し不可』 『盗賊の指輪。持ち出し不可』 魔法学院に勤める教師、『疾風のギトー』は、 彼にしては珍しく、夜の当直をしていた。 ただの気まぐれである。それほど眠くないしやっても良いか、と思って来たのである。 どうせ何も起こるはずないし――そう考えながら、入れたばかりの紅茶を手に取る。 そこに、爆音が響く。が、それには動じなかった。 この学院ではよく爆音が響く。その爆音と同じ音だった。 自分が行くほどのことでもない。そう考えながら、紅茶を口に含むと、 今度は轟音がしてきた。お茶を吹いた。 とっさに立ち上がり、轟音のした方向に駆け付けようとすると、 途中で人影とすれ違う。とっさのことで反応できなかったが、 その人影は馬小屋の方へと向かっていた。 彼は自らの使い魔を呼び出すと、それにその人影を追うように命じた。 黒い姿が、夜にとけ込む。 彼女は自らの剣に、巨像の足が振り下ろされるのを見ていた。 「ちょっ……えぇぇ!?」 思わず叫んでしまう。そのゴーレムは暫く足を動かさなかったが、 暫くすると足を上げ、去っていく。 剣が落ちていた場所に近寄るが、そこに彼女の剣はない。 もしやと思い、後ろを振り返ると、刺さっていた。ゴーレムの足の裏に。 「さ、流石ゴザレス。像が踏んでも大丈夫……ってそんなこと言ってる場合じゃない!」 ここに来る途中見掛けた、馬小屋へと彼女は駆けだした。 途中、誰かとすれ違ったが、どうでも良かった。 馬を見つけると、それに乗り、ゴーレムの後を追いかけた。 翌朝。 トリステイン魔法学院は、朝から凄い騒ぎだった。 なにせ、秘宝の『火返しの鏡』が盗まれたのである。 宝物庫に学院中の教師が集まり、その壁に刻まれた文字を見ていた。 『火返しの鏡と盗賊の指輪、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』 オスマンは、静かな声で語り出した。 「……ゆゆしき自体じゃな」 「そうです!土くれのフーケ。最近暴れ回っていると聞いたが、 まさか魔法学院にまで手を伸ばすとは!」 「衛兵は何をしていたんですか!?」 「衛兵は所詮平民!それよりは当直は誰だったのだ!」 「私だが……」 声を上げたギトーの方を、 騒ぎ立てていた教師達が一斉にそちらを向く。 「ミスタ・ギトー!当直をしていながら、 何故土くれのフーケを見逃すような事になったのですかな!?」 「いつも通り、さぼっていたのでしょう!」 「あなた方もいつもさぼっているじゃないか! それに昨日は私はちゃんと当直をやっていたぞ!?」 「ですが、見逃したことは確かでしょうに!」 「土くれと思わしき人物に、既に私の使い魔をつけさせている! いつでも追い詰めることは出来る!」 不毛な言い争いになりかけたところで、 オスマンが静かだが、力のある声で言う。 「静まりたまえ。ここで言い争いをしていても仕方がない。 ギトー君は十分な働きをしてくれた筈じゃが?」 「……それはそうですが」 「そうです、私はちゃんと――」 「まぁ、さぼっていたことについては後で聞かせて貰うとしよう」 「――……ハイ」 「は、偶然で居合わせたぐらいで威張られては――」 「お主らもじゃ」 「――――……ハイ」 「で、犯行の現場を見ていたのは誰じゃったかな?」 「この3人です」 コルベールが、後ろの方にいたルイズとキュルケ、タバサとブルーを指し示す。 恐らく使い魔は数に入らないのだろう。 「ふむ、君たちか……」 オスマンは四人を見回した。 ブルーだけ少し長く見つめていたような気もする。 「説明してくれるかね?」 オスマンが言うと、ルイズが話し出す。 「大きなゴーレムが現れて、そこの壁を壊したんです。 その後暫く止まっていましたが、動き出したら城壁を乗り越えて、 その後土に還りました」 「ふむ。それで?」 「それだけです。土の後には何もありませんでした」 「なるほど……では、ミスタ・ギトー。 君の使い魔は今どこにいるのかね?」 オスマンはルイズから一通り話を聞くと、 今度はギトーに話を振った。 「ちょっとお待ち下さい……今。近くの森に向けて飛んでいるところです。 どうやら見失ったようですが……その森に入るところは見たようです」 「その森は何処にあるのかね?」 「徒歩で半日。馬なら……4時間と言うところかと」 「すぐに王室に報告しましょう!兵隊を差し向けて貰わなければ」 コルベールが言うと、オスマンは怒鳴って返す。 「馬鹿モン!王室なんぞに頼ってどうする! これはわしらの問題じゃろうが!当然、我らだけで解決する! それに、1万の軍勢を差し向けたところで 『盗賊の指輪』を使われては捕らえることなど出来ん! 使い方を解られるうちに捕らえなければならん!」 叫ぶオスマンに、コルベールが聞く。 「あの、失礼ですが……『火返しの鏡』についてはある程度聞いてますが、 『盗賊の指輪』とは……?」 「秘密じゃ」 オスマンは何故か即答した。 「はぁ……そうですか……」 釈然としない様子のコルベールを放置し、 オスマンが大きな声で言う。 「では、ミスタ・ギトーを中心として、捜索隊を編成する。 我はと思う者は――」 「ちょ、ちょっとお待ち下さい。何故私が?」 いきなり指名され、困惑して慌てるギトーに、オスマンは呆れたように言う。 「追っているのはおぬしの使い魔じゃろう……」 「そ、そうですが……」 「とにかく、我はと思う者は杖を掲げよ!」 静寂。沈黙。不動。無変化。 要するに、誰も杖を掲げようとはしなかった。 そのうち、オスマンは悲嘆するような感情を声に乗せ、放つ。 「誰もおらんのか?どうした。 フーケを捕らえて名を上げようとする勇気を持った貴族はおらんのか!」 それでも、沈黙は保たれたままだったが、 変化は起きた。 ルイズが、杖を掲げていた。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9314.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第九十四話「誰かが作ってしまった怪獣」 工作怪獣ガゼラ 登場 ……今日も今日とて俺はルイズとキュルケのミスコンに向けての特訓につき合わされるために、 朝早くから二人に学校まで連行された。 今日は自己アピールの文章を作成するのだという。それに使うためのアピールポイントを 二人は俺に聞いてきたのだが……キュルケの方はいいとして、ルイズの方はこれといって 思い浮かばなかった。スタイルは完全に幼児体型だし、性格だってキツイし。顔立ちは なかなかだから、審査中は黙っているようにとでも助言しようかな。でもそれ言ったら 手を上げてきそうだしなぁ。 結局、朝から考え出して帰りのホームルームの時間になっても、ルイズの長所は出てこなかった。 それに怒ったルイズに半ば命令されて、放課後もルイズの自己アピール文を一緒に考えることに なってしまった。キュルケはこれに不満そうだったが、あいつもタバサに手伝ってもらっているし、 これでおあいこってところだろう。俺とタバサじゃ頭の出来が全然違うんだけどさ……。 そんなこんなで、俺とルイズは今、図書室に来ていた。 「……あのさ、ルイズ」 図書室でルイズと向かい合うと、俺は一番にあることを告げた。 「な、何? 改まった顔して」 「俺、お前のいいところ考えろって言われたけどさ。……実は、お前のことよく知らないんだ。 こないだ転校してきたばっかだし」 そうなのだ。これがルイズの長所がなかなか思い浮かばない、一番の理由。キュルケは つき合い長い(はずだ)からさっと出てくるけど、ルイズは出会ってからまだ日が浅いし、 ほとんどのことを知らない。だからいきなりいいところを言え、と言われても困ってしまうのだ。 それを指摘すると、ルイズははっとした顔になった。 「そ、そういえばそうだったわね。何だか、昔から知ってるような気分になってたけど」 「あれ、お前も? 俺もさ、ルイズとはもう何ヶ月も一緒にいたような気になってるんだよな」 ……さっき「日が浅い」と言ったし、実際その通りなのだが、俺自身としてはルイズに 異様なくらいの親しみを覚えている。それこそ、長い時間をともに過ごしたかのような……。 何故こんな気分を感じるのかは自分でもよく分からない。おまけにルイズも似たようなものだと今分かった。 もしかして俺たち、前世で会ったことがあるとか? ……なんて、そんなロマンチックなの、 俺には似合わないかな。 しばしの間、変に沈黙して見つめ合う俺たち。けど俺がその空気に気恥ずかしさを感じて、 慌てるように話を切り換えた。 「そ、そういうことだから! 先に、お前のことを教えてもらいたいな。まずは、そうだな…… お前って何で転校してきたんだ?」 俺の質問に回答するルイズ。 「よくある話だけど、父の仕事の都合よ」 「あ、そう言ってたな。えーっと、お父さんの仕事は……」 「忘れたのなら素直に言いなさいよ。……外交官よ」 「ごめんなさい。でも、外交官ってことは、ルイズは海外で育ったのか?」 「一応ね。転校も何回かしてるし」 そうだったのか。転校は今回が初めてじゃないと……。つまりルイズは、世界規模の転勤族って ところなのだろうか。 「ふーん。じゃあ英語はペラペラ?」 「……生活に支障がないくらい」 「なーんだ。ペラペラならいいアピールポイントになるのに」 何気なく言うと、ルイズは思ったよりも機嫌を損ねたようだった。 「わ、悪かったわね! それでも多分、あんたよりはまともにしゃべれるんだから!」 「そりゃ、俺、生まれも育ちも日本だしな」 そもそも英語ペラペラな日本人なんて、海外で活躍しているような人でもない限りはそうそう いないだろう。 「んー。他に何かないの? 自慢になるような趣味とか」 「趣味は編み物よ」 「あ、編み物ですか」 何故だろう……。ルイズが編み物上手ってイメージが全然湧いてこない。まぁ、コスプレの 衣装作りが趣味とか言われるよりはマシだけど。 「趣味とは別に特技ってないの? 料理が得意とか」 特技のことを聞くと、ルイズはやや憮然として答えた。 「……ないわ」 「ないのかよッ!」 やっぱり編み物は上手じゃないんだな……。 しかし、これは困ったぞ。特技がないんじゃ、アピールすることがないじゃないか。 ……いや、逆に考えてみよう。何か一つの要素を大々的に取り上げるんじゃなくて、そのままの ルイズの姿をアピールするというのは? 元々の素材はいいのだから、変に飾らない方がむしろ効果的かも。 「そうだよ。ありのままのお前を出す、それが一番のアピールになるんじゃないかな」 「そのままの……わたし?」 俺のひと言に、ルイズは若干呆気にとられたようにつぶやいた。 「うん。いつも通りの、ありのままのお前を出していくのが一番自然だよ」 「け、けど……それでキュルケに勝てるの?」 不安そうにルイズは聞き返した。いつも強気なようでいて、いざという場面では弱気な顔を見せるんだな。 「勝てるかどうかは分かんないけど、小手先の技なんてすぐにバレるのが関の山だろうし。 そうなった時の悪印象を考えれば、最初から素直にこういう時は真っ向勝負が正しいんじゃないか?」 ゼロだって言っていた。小手先の技に頼る奴は所詮半人前だ。心とか精神とか、もっと大きな 部分を拠りどころにするのが、戦いの第一歩だ。 ……言ってたよな? はっきりとした記憶はないけれど……それらしいことは言っていたはずだ。 こうして俺の心に刻まれているのだから、それだけは確かだよ、きっと。 「真っ向勝負……」 「キュルケは昔からのライバルなんだろ? だったら、余計に自然なお前の姿で勝つのが一番じゃないか?」 俺の言葉をルイズはしばし鑑みてから、答えた。 「……そうね、確かにそうだわ。サ、サイトのくせに、いいこと言うじゃない」 「サイトのくせにって何だよ。俺が推薦者らしくサポートしてやったってのに」 全く、こういう無駄に強がりなところが玉に瑕だよな、ホント。素直にお礼を言えないものかね。 「わ、分かってるわよ! だから、す、少しくらいは感謝の気持ち、持ってあげないこともないんだから!」 「はいはい、ありがとうございますっと。んじゃ、これで自己アピールの方向は決まり! 後は当日、どういうことをやるか決めようぜ」 「う、うん」 何はともあれ、自己アピールのおおまかなところが決定したので、細かいところを詰めようとする 俺たち。だが、その時に……。 「ん?」 ふと窓の向こうの背景で動くものの気配を感じ、そっちに目を配らせたら……緑色の火の玉が フヨフヨと浮いているのが見えた。 な、何だあれ? というか、図書室の窓の外に変なものが見えるというこのシチュエーション…… すごく覚えがあるぞ。そう、最初にミスコンのアイディアを、タバサからもらったのはこの図書室…… あの時は外に円盤が見えて、怪獣アブドラールスが出現したのだった。 その時と似通っている今の状況……まさか!? 緑色の火の玉が街の中に降りていって、建物の陰に入って見えなくなると……直後にそこから 巨大怪獣がぬっと姿を現した! 「ギャアアオウ!」 な、何だ、あの変てこな見た目の怪獣は……!? 全身は青い粘土質で、右腕は関節の曲がらない でかい握り拳がブンブンと振り回されており、左手は洗濯バサミ? 口の中には百円ライターが 収まっていて、胸には古めかしいラジオの部品が張りついている。怪獣というか……まんま子供が 作ったような怪獣の玩具がそのまま巨大化したようなのが、動いて暴れている! 端末から引っ張ったデータによると……本当に玩具の怪獣が本物に変貌した怪獣ガゼラ! そんな冗談のような怪獣もいるのかよ! 「ギャアアオウ!」 ナリは冗談のようだが、火を噴いて暴れる姿は本物の怪獣だ! これはまずいぞ! 「サ、サイト! 怪獣が現れたわ!」 「ああ!」 叫ぶルイズ。言われなくとも分かっている。俺はウルトラマンゼロとなって怪獣に立ち向かわないと……。 「頑張ってね、サイト!」 「ああ! ……えッ!?」 つい自然に返事してしまったが……えぇ!? 俺、今ルイズに何て言われた!? が、「頑張ってね」? それってつまり、俺に怪獣と戦ってこいと!? いや、まさか、 ルイズは俺がゼロだと知っているのか……? だからそんなことを言ったのか!? でも、 どうしてルイズがそのことを知っているんだ……!? バレる場面なんてなかったはずだぞ……? 「おいルイズ、今のどういう意味……?」 「え……?」 聞き返すと、ルイズは我に返ったように口元を手で隠した。 「や、やだ、わたしったら! 何おかしなこと言ってるのかしら!? 何だか、自然と口から出てきて……」 どうやらゼロのことを知っている訳ではなかったみたいだ。それならいいんだが、自然と無茶振りが 口から出てくるってどういうことなんだ。……とはいえ、俺もごく自然に返事したのだが。 「い、今のは忘れて! わ、わたしは先に避難してるからね!」 変なことを言ったのが恥ずかしいのか、ルイズはあたふたとした様子で図書室から飛び出していった。 ほんと、おかしな奴だな……。でも、これで変身できるようになった。 「よし、行くぜ! デュワッ!」 周りに誰もいないことを確認してから、ウルトラゼロアイを装着だ! 俺から変身したゼロは 窓から図書室より飛び出していき、ガゼラの面前で同等に巨大化する。 『もう好き勝手はさせねぇぜ!』 「ギャアアオウ!」 これ以上の街への被害を阻止するために、ゼロは正面切ってガゼラに勝負を挑んだ! 『せぇぇぇあッ!』 まず疾風のようなスピードの正拳突きが入り、そこからキック、チョップといった打撃技を 途切れることなく叩き込む。今日のゼロはいつにもまして絶好調だ! が、当のガゼラにはさして効いている様子が見られない。それは粘土細工の怪獣だから 表情の変化がないからだけでは断じてない! 「ギャアアオウ!」 ゼロの攻撃を受け切ったガゼラは、右腕のでかい拳を振り回してきた。一撃を受けたゼロが、 ボールのように吹っ飛ばされる! 『ぐはぁッ!』 『ゼロ!!』 想定外の事態だったので、俺は思わずゼロの名を叫んでいた。こいつ、パワーだけはゼロの 倍くらいもある! とんでもない! 『ぐッ……何て怪力だ……!』 あまりのもダメージを食らって、よろめきながら起き上がるゼロ。俺は詳しく調べたガゼラの 情報を伝える。 『ゼロ! あいつは、受けた攻撃のエネルギーを吸収して倍の力にしてはね返してしまうんだって!』 『何だって!?』 『胸にある増幅器で、どんなエネルギーも倍にする……玩具の時の設定が再現された能力だって 書いてある……!』 そんな子供が考えたとんでも設定を現実にするなんて、無茶苦茶だろ!? 何てデタラメな怪獣なんだ! 『くッ、てやッ!』 ゼロはゼロスラッガーを飛ばしてガゼラの身体を貫通しようとしたが、スラッガーは相手の 身体に弾き返され、ガゼラは更に力を上げる。スラッガーの物理衝撃まで通用しないのかよ! 『こいつでどうだぁッ!』 ゼロは続けざまにワイドゼロショットを撃ち込んだ。が、これも効果が見られない! 「ギャアアオウ!」 それどころか、ガゼラは頭頂部の角と拳から赤い電撃光線を放って反撃してくる! 『うぐあぁぁぁッ!』 破壊力はワイドゼロショットのそのまま倍だ! ゼロは大きく吹っ飛ばされてしまう。 本当に、どんな攻撃も倍にして返すなんて……。それじゃあ無敵じゃないか! 倒す手段なんて ないじゃないか……! 一瞬絶望する俺だが、ゼロの方にあきらめの色はなかった。 『落ち着け、才人……! 絶対無敵な奴なんてこの世にいやしねぇぜ。完璧に見えても、 どこかしらに穴があるもんだ。そこを突くのさ!』 ゼロはガゼラの弱点を見つけ出すまで、防戦の構えを取る。 「ギャアアオウ! ギャアアオウ!」 だがガゼラの攻撃の勢いは激しく、ゼロを瞬く間にボコボコにする……! 『ぐ、ぐぅ……!』 だ、大丈夫なのか? 弱点を発見するまでに、身体が持つのかよ? 不安に駆られる俺だったが、その時にガゼラの胸の増幅器が確かにぐらついた! 『あれだ! 胸のパーツがしっかりくっついてないんだ!』 それを見抜いたゼロの行動は早かった。一旦飛びすさってガゼラから距離を取ると、間髪入れずに 高く跳躍! ウルトラゼロキックの構えを取った! 「デェェェェヤッ!」 飛び蹴りがガゼラの胸部にヒットし、その衝撃で増幅器がガタリと落下した! 「ギャアアオウ……!」 途端に、ガゼラのそれまでのパワーが嘘だったかのように全身から力が抜けていった。 やった! 反撃のチャンスだ! 『おおおおおおッ!』 これまでの鬱憤を晴らすかのような怒濤の打撃を入れていくゼロ! 後ろ回し蹴りが相手の 頭部に炸裂すると、ガゼラはすごい勢いでバタバタ暴れた後にばったりと横倒れになった。 それから緑色の火の玉が抜け出し、ガゼラの肉体は小さな玩具のサイズに逆戻りした。 「シャッ!」 ゼロは人魂の方にエメリウムスラッシュを撃ち込んだ。この一撃で人魂は消え去り、ガゼラが 二度と巨大化することはなくなった。 やった! 一時は本気でまずいと思ったが、ゼロの大逆転だ! きっと、前に現れたガゼラも 同様の方法で倒されたんだろうな。でも……。 『どうしてあんなに分かりやすい弱点がそのままだったんだろう? 胸の一番重要な部品を 取れづらくするように手を加えるくらい、誰でもしそうなものだけど、やってないなんて』 俺はそのことに疑問を感じた。ガゼラの最大の武器でもあり一番の弱点でもあるラジオの部品に 手を加えられた跡がないなんて、ガゼラをけしかけてきた奴はどういう考えだったのか。そもそも、 ガゼラはどのようにして再び出現したのか。 『さぁ……。今からじゃ、それはもう分からねぇな……』 今度の戦いの裏にあるだろう真相に関しては、さすがにゼロにも何も分からなかった。 一応のところは平和を取り戻せた。元の姿に戻った俺は、これ以上学園で何かするのはよして、 家への帰路についていた。 いつもながら、高校生とウルトラ戦士の二足のわらじの日々はとても大変だ。でもそう悪い ことでもないと思える。何だかんだで周りには友達がいて楽しいし、平和を守る戦いほど やり甲斐のあるものもない。まぁ、最近のルイズとキュルケにはもうちょっと手加減をして もらいたいところではあるが。 そう思いながら歩いていたら……背後からパタパタと足音が近づいてきた。この軽い音だと……女の子? 振り返ってみると、ルイズが俺の元に走り寄ってきていた。 「ルイズ? どうした、さっき分かれたばかりなのにどうしてここにいるんだ?」 帰る方向は違うから分かれたというのに、何でこっちに来たんだ? そう思って尋ねると、 ルイズは多少上ずった声で答えた。 「こ、こっち側に用事があることを思い出したのよッ! べべ、べ、別にあんたに会うために 来たんじゃないんだからね!」 ……用事って何だよ。 「んじゃ、俺と話してないで早く行けよ」 「せ、せっかく会ったんだから少しくらい、話をさせなさいよ」 それって、どう考えても俺と話をするために来たとしか思えないんだけど……。どうしてこいつは いちいち素直に物を言えないんだろうかな。 「分かったよ。話って?」 聞き返すと、ルイズはおずおずと口を開いた。 「……あ、あの、最近のことだけど。色々迷惑かけちゃって悪いとは思ってるんだからね?」 意外な言葉だった。ルイズもそんな殊勝なことを考えていたのか。 「そ、それで、なんだけど……明日って、祝日で学校休みよね!」 「ああ、そうだったな。……って、おい。まさか明日も特訓か?」 「ち、違うわよッ! 明日の休み、あんたは予定とかないの?」 「そーだな、特に予定はないが」 話がよく見えない。俺の予定を確認して、それでいて特訓でもないなら、どうするつもりなんだ? 「だったら……明日は、わたしの買い物につき合いなさい!」 「はぁ? 買い物?」 「そ、そうよ! 労をねぎらうことも必要でしょうから、誘ってあげるの! けど、勘違いしないで! あくまで荷物持ちとしてだからね! ああ、あんたと、い、一緒がいいってことじゃないんだからね!」 おいおい……。荷物持ちじゃ、労をねぎらうことにはならないだろうに。もっと普通に 誘うことは出来ないのか。 「そういうことだから、明日はわたしについてきなさいよ!」 「はいはい、分かったよ。どうせ暇だし、つき合ってやる」 「じ、じゃあ決まりね!」 俺が返答したら、途端にルイズは嬉しそうな顔になった。口ではあーだこーだ言っているくせに、 そんな表情するなんて……何か俺まで嬉しくなるじゃんかよ。 「じゃ、待ち合わせは……学校の近くの公園にしましょ。時間は十時ね」 「分かった。お前、ちゃんと時間通りに来いよ」 「分かってるわよ! あんたこそ、遅刻したりしたら許さないんだから! じゃ、また明日!」 約束を取り交わすと、ルイズはパタパタと来た道を引き返していった。こっちに用事が あるんじゃなかったのかよ、全く。 それはともかく、明日はルイズと買い物に行くこととなった。普通、かわいい女の子に 誘われたら嬉しいものだろうが、相手はあのルイズだからなぁ。嬉しさ半分、不安半分って ところが正直な気持ちだ。明日はどうなるんだろうなぁ……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9387.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百二十七話「王立図書館の恐怖」 冷凍怪獣ペギラ ペットロボット ガラQ 登場 ――そろそろ夏が近い季節にも関わらず、トリステイン王国領土の平原が一面の銀世界に なっていた。見渡す限りの大地が氷雪に埋もれており、木や草花には霜が降りている。仮に真冬で あったとしても、トリステインの気候ではここまでの光景にはならないだろうというほどに 氷で閉ざされていた。 「バアオオオオオオオオ!」 その犯人は、銀世界の真ん中に立つ一体の巨大生物。腕はヒレ状の翼となっており、足には 水かきが生えている。首はトドかアザラシのような鰭脚類に似ていて、まぶたが常に半開きなのが おとぼけな印象を受けるが、この状況で一目瞭然だがその実はかなりの力を秘めた冷凍怪獣だ。 名をペギラ。本来は寒冷地にのみ棲息する怪獣なのだが、何らかの事情でトリステインの地に 迷い込んできたのだろう。そして降り立った場所を中心として自分に棲み良い世界に変えてしまった ばかりか、氷の世界はペギラの冷凍光線によってどんどんと拡大していっている。このままでは トリステイン全体が凍りついてしまうかもしれない。 人間は環境への適応能力が優れているという訳ではない。それなのに世界で最も繁栄している 生物になることが出来たのは、高い知能によって環境の方を自分たちの暮らしやすいように変える 能力があるからだ。そこが通常の生物と一線を画すところだが、これを見ると怪獣にも同じ能力が 備わっていると言うことが出来るだろう。しかも怪獣には人間などはるかに超越する戦闘能力まで ある。このままでは数え切れない人間がペギラによって蹂躙され、ハルケギニアという星が滅茶苦茶に 荒らされてしまうのは誰が見ても明らか。 しかしそんな惨状を阻止するためにはるか遠くの宇宙から次元の壁を越えてやってきた、 新時代の英雄がいる。 「シェアッ!」 そう、我らがウルトラマンゼロ! 彼は宇宙空手の構えを取り、これ以上トリステインを 氷に閉ざさせないためにペギラに果敢に立ち向かっていく。 「バアオオオオオオオオ!」 だがペギラは口から霧状の冷凍光線を、膨大な量で吐き出す。それは俊敏なゼロでも回避 することは不可能であった。 「グゥッ!?」 冷凍光線によってゼロは途端に苦しみ、身体が徐々に凍りついていく。ウルトラ族は光の種族。 身体の内に計り知れない光のエネルギーを持ってはいるが、それ故に極低温に対する耐性は持たない。 冷凍怪獣は全ウルトラ戦士が苦手とするところなのだ。 しかもペギラは冷凍光線を発する能力に特化している。まさに相性は最悪だ。如何にゼロでも、 ペギラのもたらす猛吹雪を突破することは出来ないのか? 『――はぁぁぁぁぁッ!』 そう思われたが、しかし、ゼロは全身から凄まじい熱量を発することで氷を溶かし、冷凍光線を はねのけた上に、ペギラ本体まで熱波によってひるませた。 『俺たちは!』 『これくらいの寒さじゃあ!』 『参らないぜッ!!』 ゼロと、このハルケギニアで彼と一体となった地球からの来訪者、才人の声がそろった。 初めは事故によってゼロと融合し、否応なしに彼とともに戦う羽目になっただけの才人で あったが、ハルケギニアで様々な戦いと試練を乗り越える内に大きく成長して、今や誰もに 認められる立派な戦士となった。ポール星人がもたらした氷河期も踏破したことのある彼の 精神力は、ペギラの冷凍光線も寄せつけない熱さなのだ。その精神がゼロの力に直結している。 ゼロと才人、この二人は名実ともにハルケギニアの新たなる英雄であると言えよう。 『お返しだぜ! 俺たちの魂のビッグバン、とくと味わいなぁッ!』 ゼロは握り締めた拳に真っ赤に燃える炎を宿し、ペギラへとまっすぐ駆けていく。 「セイヤァァァッ!」 そして決まる灼熱のチョップ、ビッグバンゼロ! 弾けた熱波が辺り一面に広がり、銀世界を吹き飛ばして氷雪を瞬く間に溶かしていった。 「バアオオオオオオオオ!!」 熱すぎる一撃をもらったペギラはたまらずに戦意を失い、勢いよく空に飛び上がって黒い煙を 吹かしながら北に向かってまっすぐ飛び去っていった。このまま本来の生息域である、北方の 寒冷地へと去っていくことだろう。そのまま人間と折り合いをつけて生きていくのが、ペギラに とっても人間にとっても最良の道なのだ。 「ジュワッ!」 そしてペギラが立ち去っていったことで、ゼロもまた大空に飛び立って帰還していった。 ハルケギニアのほとんどの者が知らないことだが、彼の帰る場所はトリステイン魔法学院。 才人はそこで自分を召喚した少女、ルイズの使い魔として日々の生活を過ごしているのだった。 ……このゼロの飛び去っていく姿を、ある場所から何者かが、不可思議な能力を以てじっと 観察をしていた。 『あれが、新しく現れた現実世界の英雄、巨躯なる超人、ウルトラマンゼロ。そして……』 さてペギラを撃退した後、才人はルイズとともにトリスタニアを訪れて、アンリエッタから ある頼みごとを受けた。 「ここがトリステインの図書館かぁ~。おっきいな!」 「当たり前でしょ、王立なんだから。すごく価値のある資料も保管されてるのよ。……まぁでも、 わたしもこんなに大きいとは思ってなかったけど」 日が地平線の向こうに沈みそうな時間帯に、ルイズと才人は雄大で豪奢な造りの建築物の 前にやってきていた。ここはトリステイン王国立図書館。トリステインが保有する様々な種類の 資料がこの建物の中に保管されている。 才人はアンリエッタからの依頼の内容を、ルイズに確認する。 「それで、この中に夜な夜な幽霊やら人魂やらが出るってことだったよな? でも見間違い じゃないのか? 幽霊なんて、大体はそんなオチだぜ。まさかシャドウマンがそこらにいる はずもないだろうし」 「それを確かめるのがわたしたちの仕事でしょうが」 アンリエッタからの話によると、ここ最近になって図書館で幽霊を目撃したという話が 持ち上がっていると、図書館の司書から報告があったというのだ。貴重な図書を狙う窃盗犯の 仕業かもしれないので、事の真偽と幽霊の正体を早急に調査しなければならない。しかし折悪く、 アンリエッタはある式典に出席するためロマリアに赴かなければならず、その準備で王宮は 忙殺されている状態。それで他に手が空いていて、アンリエッタの信頼がある人員として、 ルイズと才人にお鉢が回ってきたのだった。 「でも幽霊の正体暴きなんて、騎士というより探偵の仕事みたいだよなぁ。まぁ、剣の出番が ないのならそれに越したことはないんだけどさ」 「俺としてはちょいと残念だがな。出番がねえのは寂しいぜ」 デルフリンガーが鞘から少しだけ顔(?)を出してぼやいた。 幽霊の正体はまだ見当もつかないが、誰かが危害を受けたという話はないとのこと。大袈裟な 対応は必要ないだろう、ということでオンディーヌは学院に置いてきて、ルイズとの二人だけが アンリエッタに騒動の解決を頼まれた。……はずなのだが……。 「それなのに……どうしてタバサはここにいるのかしらね……?」 「シルフィもいるのね!」 「パムー」 ルイズたちの後ろについているタバサの傍らのシルフィード人間体が手を挙げ、その肩の上の ハネジローも真似して手を挙げた。才人はタバサにヒソヒソと尋ねかける。 「何でシルフィードは人間の姿なんだ?」 「街中で風竜の姿だと目立つ」 なるほど、とうなずいている才人をよそに、ルイズはタバサに再度問いかけた。 「タバサ、どうしてあなたがわたしたちと一緒に来てるのかしらね? またサイトの護衛とか 言うつもりじゃないわよね」 タバサは臆面もなく首肯してみせた。タバサは才人たちが学院からトリスタニアへと出かけるのに 目敏く気づいて、追いかけてきたのだ。シルフィードの速度からは誰も逃れられない。 ルイズは目くじらを立ててタバサに詰め寄る。 「タバサ、ちょっと出しゃばりすぎじゃないのかしら? 行く先々にわたしたちについて回って。 これじゃあストーカーよ? 涼しい顔してないで、自重ってものを覚えた方がいいんじゃなくて?」 タバサは涼しい顔で言い返した。 「あなたに指図されることじゃない」 ピキ、と青筋を立てたルイズが杖を抜こうとするのを才人は慌ててなだめる。 「だぁーッ! こんなとこで喧嘩になるなよ! そ、それより、ここの図書館の司書の人は まだなのかな? ここで待ち合わせのはずだよな」 「お待たせしました」 噂をしたら、ちょうど図書館の司書と思しき人物がやってきた。 才人は王立図書館の司書と言うから年配を想像していたが、それとは裏腹に眼鏡を掛けた うら若き女性であった。肩の上には丸っこく赤い奇妙なものを乗せている。一見生き物かの ようだが、よく見れば人工物であった。 「司書のリーヴルと言います。この子は使い魔のガラQです」 「ガラQ! ヨロシク!」 「パム!」 肩の上のガラQなる赤い真ん丸が短い手をひょっこり上げて挨拶すると、ハネジローが 快活に挨拶を返した。 ルイズは早速リーヴルという女性に、幽霊騒動の話を持ちかけた。 「リーヴル、図書館に出る幽霊のことなんだけど、それって目撃されたのは夜だけなの?」 「ええ、今のところは」 「分かったわ。それじゃ一旦宿に戻って、夜になってからまた来ましょう」 「よろしくお願いします」 と頭を下げたリーヴルは……ルイズに鍵の束を手渡した。 「これが図書館の鍵です。では、私はこれで」 言い残してその場を立ち去ろうとするリーヴルに、タバサも面食らった。 「ち、ちょっと! まさか帰るの!?」 「ええ。もう閉館の時間で、本日の業務も全て終えましたので」 「わたしたちだけで図書館にいろっていうの!?」 「私の仕事は時間内の図書館の管理だけです。他の時間は仕事の範疇外です。時間外の労働に ついては、国を通して申請して下さい。それでは……」 淡々と告げられてルイズたちが唖然としている内に、リーヴルはスタスタと帰っていってしまった。 「あ、ちょっと待ちなさいよ! ……行っちゃった」 「い、如何にもお役所仕事って感じの人だったな……」 苦笑いを浮かべる才人。肩をすくめ、図書館の方へ向き直る。 「仕方ない。今から王宮に行くのも何だし、俺たちだけで見て回ろうぜ」 「はぁ、しょうがないわね……」 ルイズと才人はそのまま宿の方角へ歩いていくが、タバサはやや怪訝な様子でリーヴルの 去っていった方向を見つめていた。 「お姉さま、どうしたのね? 置いてかれちゃうのね」 シルフィードが急かすと、タバサはポツリとつぶやいた。 「……司書が夕方には帰るなら、誰が夜中に図書館内で幽霊を目撃したの?」 「あッ、そういえば……」 シルフィードとハネジローが首をひねったが、答えは出てこなかった。 「うーん、難しいことは分からないのね。それより早く追いかけないと、あの意地悪な桃色髪に 宿から閉め出されるかもしれないのね」 「……」 タバサはまだリーヴルの去った後に目を向けていたが、シルフィードに手を引かれて、 ルイズたちの背中を追っていった。 数時間後に完全に日が落ちてから、ルイズたち一行は図書館に舞い戻ってきた。正門の鍵を 開け、中に入っていく。 図書館は点在している仄かな魔法の照明のみが中を照らしており、辺りはかなり薄暗く、 かつしんと静まり返っている。一行の他には誰もいないのだから当たり前ではあるが。 シルフィードがぶるぶると震えて口を開いた。 「うぅ、何だか不気味な雰囲気なのね。ほんとにお化けが出てきそうなのね」 「あんた、夜中は外で寝てるじゃない。それなのに暗いのが怖いの?」 突っ込むルイズ。 「お外は夜でも虫の声や風の音がするのね。ここは何の音もない、自然にはない世界だから薄気味悪いのね。 全く、人間ってどうして自分たちの住処から音を無くしちゃうのか、理解に苦しむのね」 「パムー」 シルフィードがぼやいていると、才人がふと平然としているタバサに尋ねかけた。 「そういえばタバサ、幽霊が出るかもしれないって話なのに、お前怖くないのか? この前は 幽霊嫌いとか言ってなかったっけ」 するとタバサはギクリと身体を震わせる、珍しい反応を見せた。それに気づいてルイズが 胡乱な目を向けた。 「何よタバサ、あんた幽霊怖いの? ……でもそんな風には見えないわね。まさか、嘘吐いたんじゃ ないでしょうね。サイトに、何のために?」 軽く冷や汗を垂らすタバサを見て、何かを察したシルフィードがにんまりした。 「そうなのね! お姉さま、お化けがとってもお嫌いなのね。そういうことだから、勇者さまに お姉さまを守ってもらいたいのね! さあさあ」 タバサをぐいぐいと才人に押しやるシルフィード。 「お、おいシルフィード、ちょっと待ってくれよ……!」 戸惑う才人だが、それ以上にルイズが癇癪を起こした。 「ちょっとぉッ! 何やってるのよあんたたち! 邪魔しに来たんなら帰ってくれる!?」 「落ち着けってルイズ。そんなに怒らなくてもいいだろ。お前は怖くないのか?」 「な、何が怖いもんですか! お化けが怖いなんて、そんな子供っぽいこと……!」 とのたまうルイズだったが、その時にどこか奥の方でバサッという物音がした。 「きゃあああッ!?」 その途端にルイズは大きな悲鳴を上げ、才人の片腕に抱きつく。 「ル、ルイズ、今のはどっかで本が落ちただけだよ。怖がることないじゃないか」 「ぷぷぷー。何だ、結局お前も怖いのねー」 シルフィードに笑われ、ルイズはハッと我に返った。 「こ、怖がってなんかないわよ! サイトが怖がると思って抱き寄せただけなんだからね!」 「へぇー?」 才人が含み笑いを浮かべて自分に目を向けるので、ルイズはキッとにらみ返した。 「何よサイト。ご主人様が怖がったって言いたいの?」 「いや、そんなことはないけどさ」 「お姉さまは怖いって言ってるのね! 抱き締めてあげるのね!」 再びタバサをぐいぐい才人に押しやるシルフィード。才人はタバサの控えめながらも柔らかい 感触と肌のぬくもりを感じて赤面した。 「だ、だからシルフィード、ちょっとやめてって……」 「こ、この犬ぅ~……!」 するとルイズはメラメラと嫉妬心を燃やして、クルッと背を向けた。 「もういいわよッ! 真面目にやる気がないんだったら、わたし一人で姫さまからの任務を 遂行するわ! 犬はそこでタバサと竜とじゃれ合ってればいいわッ! それじゃあね!!」 すっかりへそを曲げたルイズは憤然としながら、一人で図書館の奥へと行ってしまった。 「あッ、おいルイズ! 一人で行くな、危ないぞ!」 慌ててそれを追いかけていく才人。残されたタバサはジロッとシルフィードをにらむと、 杖でその頭を叩いた。 「いたい!」 「おふざけが過ぎる」 「ごめんなさい、お姉さま。シルフィはただ、お姉さまがあの男の子ともっと仲良くできたら いいなって思っただけなのね。……でもお姉さまだって、割と満更でもなかったような」 そう言ったら、タバサはポカポカと杖で何回も叩いた。 「いたいいたい!」 「パム~」 そんな二人の様子をながめて、ハネジローがやれやれといった感じに首を振った。 「もう、サイトの馬鹿! 知らないッ……!」 ルイズはぷりぷりしながら書架の間を通り抜けて進んでいく。 「いつまで経っても、ご主人様の気持ちが分からないんだから! すぐ女の子にデレデレして……!」 不平不満を垂れながら歩いていたら……行く先に、本が六冊床に落ちているのを発見した。 「あら……? さっき落ちたのはこれかしら。でも、どこから落ちたのかしら」 左右に目を走らせたルイズだが、両隣の書架は綺麗に本が並んでいて、落下の形跡は 見当たらなかった。書架の上にでも積んであったのだろうか? ともかく床に落ちたままなのは落ち着かないので、拾って棚に戻そうと本に手を伸ばすと……。 「え……?」 その六冊の本から、妙な輝きが発せられた。 才人はルイズの姿を捜しながら、薄暗い図書館の中を彷徨っている。 「おーいルイズー、どこ行ったんだー? くそッ、見失っちまったな……」 頭をかく才人にデルフリンガーが意見する。 「いくら広くても限度があるだろうさ。外に出たんじゃなけりゃあ、しらみ潰しに捜せば 見つかるだろうよ」 「そうだよな。全く、幽霊より先にルイズを見つけなきゃいけなくなるなんて……」 ぼやいたその時、奥の方からドサッと何かが倒れる音がした。先ほどの本の音とは違い、 明らかにもっと重いものの響きだった。 「!? 今のは……」 『サイト!』 ゼロが焦った声を発した。 『ルイズの気配が妙だ! 急に動きがなくなった……! こりゃちょっとまずいかもしれねぇぜ!』 「何だって!? ルイズッ!」 慌てて音の聞こえた方向に走る才人。そして、ルイズが床に倒れているところを発見する こととなった。 「ルイズ! 何こんなところで寝てるんだよ!」 「動かさないで!」 ルイズの身体に触れようとした才人を、同じく異常を察して駆けつけてきたタバサが呼び止めた。 「頭を打ってるかもしれない」 「そ、そうだな。ルイズ、しっかりしろ! ルイズ!」 才人は手を引いて、ルイズに何度も呼びかける。だが一向に目覚める気配がない。 「ルイズ、どうしたんだよ……?」 タバサがルイズの容態を診て、眉間に皺を刻んだ。 「完全に気を失っている。落ち着けるところで手当てした方がいい」 「そうか……。じゃあ控え室にルイズを運ぼう。大事じゃなければいんだけど……」 「シルフィード」 「はいなのね!」 才人とシルフィードで協力してルイズの身体を持ち上げ、気をつけながら控え室まで運んでいった。 「パム! パム!」 その一方でシルフィードの肩から飛び降りたハネジローが、ルイズの側に落ちていた六冊の本を 妙に警戒して鳴き声を上げた。 「……?」 それを見たタバサは、本を全て拾い上げて、才人たちを追いかけて控え室に持っていった。 それからルイズは気つけ薬を飲まされたり魔法を掛けられたりしたのだが、少しも目を 覚ますことがなかった。一体、ルイズの身に何が起きたというのか……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔